苛立ちの行く先
満月のすごい月の出を撮った五日の血の騒ぎも、十年も前のできごとのように遠い。コスモスの群生もオニヤンマのふ化もブラックアイも何もかもが遠い。あれほど気に入っていた湯の花の空気すら遠い。
むじなの森の風も光も夕日も虹もカナカナも嵐も、ジ・アースの美しさも、花の道の明かりも、ゴンドラの揺れも遠い。
あの場所で出会い思いを深めあった人たちの顔も今日はさだかな像を結ばない。結べない。
結べないことに哀しみも喪失感も沸かないことに気づき、がく然としている。
この二ヶ月はいったい何だったのか。
あの焦熱感といてもたってもいられない高ぶりとは何だったのか。

焔は燃え尽きる寸前にひときわ激しく燃える瞬間があるという。実際にそんなことがあるのかどうか確かめたこともないが、近いイメージなのか。

水の惑星がどれほどのものであったかはともあれ、何かにピリオドを打つとしたら、案外似合った中身でもあったのか。

わからねえな。
憂愁にしちゃ、いささかしつこすぎるし永すぎるのだ。
気がつくと無精ヒゲを剃る気力すらもない。このままのばしてりゃ、どこにも行けずにすむかな、なんてつまらねえことも浮かぶ。

街に出て、出合い頭の武闘でもしてみるか。若いやつに袋にされて一ヶ月も入院してみれば気も晴れるのか。

わからねえ。
くそったれ。