テムジンと占うマッサージ師
博多のテムジンで念願のギョーザを食べ関門海峡を逆送し小郡へ。9時半過ぎにホテル入り。奄美に持参し、途中で読むのをやめていた奥田英朗の「サウスバウンド」を機内で読みはじめた。福岡に着き、ロケバスに乗り込んだところで第1部読了。第2部は「south」。出足のかったるさは霧消していた。石垣島の一夜を経、いよいよ西表島生活となるところで夕闇。ツリーハウスのplanningにこのロケをあてようと思っていたが、「サウスバウンド」を読了したところで書き出すのがふさわしいような展開になってきた。かなりいい弾みになる、そんな予感がある。奥田の文体は軽く読みやすいので、ほんとうなら奄美帰りの夜には読了したはず。めずらしく放っておいて一ヶ月半経過した、今になって残りを読もうとした今朝の気分が、当たっているのだ。郵船を書いたときの武揚伝のようなきっかけ、そんな気がする。シャワーを浴び、マッサージをとる。おかしなおばさんで、自分が考案したとかいうスポーツ整体というのを一生懸命説明しながらやってくれた。東京でよくかかるマッサージとたいした違いはなかったが、よく効きますよ、と言ったら喜んで手相を見てくれた。笑いをかみ殺して聞いていると、生命線が長く百歳以上生きるだろう、運命線が太く長いから楽しい時間が続く…などとヘボ易者のようなことを言っていたが、ふと黙った。何?と聞くと、眉をしかめて口ごもっている。もういちど聞く。いいにくそうに、二人の女のひとが見えるのだ、とぽつんと。あんたたいへんだねえ…とため息つきながらおれの顔をまじまじと眺めてくる。白衣を着けた豆ゴリラのような体形と表情のおばさんが、横を向いて深いため息を二度ついて、運命も生命線もこんなに素晴らしいのにねえ、二人の女人でねえ、あんた苦労してるねえ、とわけのわからないイタコ状態である。運命線が太くて長くて楽しい時間が続くんだから、それでいいんでしょ?と尋ねると、黙って首を振るばかり。そして、あんた思い当たってるんでしょ、と変な日本語で問うてきた。答えなかったら、そういう運命なのねえ、とまたため息。今夜はもういいよ、と金を払って帰ってもらった。長州はどうもなじめない。飯はまずいし、女は不細工。天候不順でホテルの部屋は狭くてみじめったらしい。ああ東京に帰りてえ。