思いを込めて満月捕獲。してやったり。
鹿島技術研究所で地震実験撮影が終わったのが日暮れすこし前。
韋駄天走りで多摩川へ。
いちばん近い土手に駈け上がり、雲隠れした中秋の夕焼けを狙う。
日が落ちて月の出を前に撮影場所をどこにするか迷う。
渡辺が対岸に渡りましょう、とひとこと。
一年あまり月を追いかけた渡辺に乗ろう、と押す。
即座に移動。
橋を渡る寸前までは上流を考えていた。
そのとき渡辺が月の出方向の下流手前に煌々と照る照明灯を見つけた。
あの光源を越えましょう、と言うなり下流に沿ってハンドルを切る。
暗い土手を数百メートル走ったあたりで
真っ正面、河口の方に赤い巨大な半球が見えた。
息を飲んだ。
そのまま近づく。
満月。
切れ込みを見つけ土手を降りる。
撮影部が間を置かず到着。
1分もかからずにキャメラをセッティング。
多摩川の河口から赤い巨大な月が昇っている。
川面から月が昇っていくように見える。
2003年の中秋の夕日のような満月である。

キャメラはデジタルHD-F900 。
撮影は倉持キャメラマン。
赤い月。赤い雲。赤い水の夜。

夕暮れまでアブラゼミが鳴いていた。
夜になって鈴虫とコオロギ。
そして遠雷。

月を撮り、川風に吹かれながら
渡辺と夏苅が仕入れてきたモスバーガーを喰らう。

この夏、いちばんうまい食い物だったと思う。

スタッフに別れを告げ、真っ暗な多摩堤をさらに河口へと向かいながら
渡辺と沙羅さんのことを話した。

部屋に戻り裸になるとシャツに塩が浮いていた。
冷房のない実験場で8台のキャメラを回し、
神戸級の地震動を朝から撮った。
一睡もせずに出かけたので朝から汗にまみれた。
ときどき空を眺めながら、
このままいけばみごとな月が撮れるはず…と
たかぶる気持ちだけが睡魔を退けたのだ。

願えば叶う。
こともある。

疲れたが、爽快でもある。
高揚がまだ続いている。
このまま撮影部を引き連れて
熊野でも九州でも向かいたいほどだ。
もうみんな眠りについただろうけど。