《シュリ》ラストのみ★★★★★
ビデオ屋で借りて一週間以上放っておいた《シュリ》を観た。
ラストぎりぎりまではありきたりの政治劇と
舌足らずなアクションシーンに、
何度もやめようかなと思いながらあくびをかみ殺していた。

向かい合った銃口を彼女が大統領のクルマに向けてそらした
その瞬間から、政治もアクションも吹っ飛んで、
純粋な愛の姿だけが浮かび上がってきた。
取り調べ。彼女の店に残された最後のメッセージ。
編み上がった真っ白いセーター。
名前を騙られた娘が聴かせてくれる死んだ女の愛した歌。
その歌をヘッドフォンで聴きながら海辺の断崖のベンチで
呆然とする男。そのゆるやかな鳥瞰ショット。
ヘッドフォンからこぼれた歌がそのまま
クレジットロールにかかっていくという幕の下ろし方。

テープに残されたメッセージには
「あなたと過ごした一年が私の人生のすべてでした…。
いま、あなたにとても逢いたい」と叫ぶようなモノローグ。

映画としてのドラマツルギーはさておいて、
ラストの数分間のメローさは特筆モノ。
同じことを日本でつくるとただのマンガで終わる。

この材料だと興業の制限で時間が決められる映画では難しい。
ラスト前の2時間余りをせめて10倍にふくらましてあれば、
あのラストはふるえるようなカタルシスが得られる。

メディアの選択肢が飛躍的に増えたにも関わらず
劇場というパイだけで勝負する《劇場用映画》は
すでに存在意義の過半が失われているのではないか。