破魔矢と日の出と大言海
八幡神社で手に入れた破魔矢をオフィスに持っていったら、渡辺がいた。
家に帰らずに房総までクルマを飛ばしたらしい。
大晦の月を献じたら、こんどは初日の出を贈りたくなったようだ。

行き先は、千倉。
湯治部が《光と風の日本》の口火を切った
あの千倉の海である。
深夜に思い立ち、横須賀に帰るのをやめ
海ほたるを経て一気に房総へと走ったようだ。

日と月と。
照らすものと照らされるもの。
その二つを合わせることで
窓のない部屋の白いベッドに眠るその人に
この世にみなぎる力を味わってもらいたい…
とでも言いたげな思いつめた顔だった。

想いは、人を奔らせる。
想いこそが、人を常の日々を越えさせる。

元旦の夕。
少しやつれたような渡辺の顔を見ながら
そんなことを感じた。

破魔矢を渡辺に渡したら
本棚の大言海の前に立てた。


なるほど、そういうことかと、思った。