SARAH BRIGHTMAN《EDEN》とジ・アースの部品。
釈然としないままに朝食をすませオフィスに。渡辺が青柳さんから大きなパッケージが届いてます、と「那須連峰の天然水」とプリントされた中型の段ボールを見せる。持ってみるとかなり重い。アンちゃんはなんだって天然水など送ってくれたのだろう、いくらおれが「水」の演出家だとはいえ、何も飲み水くれなくても、それにおれはヴオルビックの方が好きなのに、などといぶかしがりながら開いてみると、新聞紙でくるまれた大きな金具?のようなものが出てきた。添えられた手書きのメモを読んだら
「技術屋はこんなものに欲情してしまうのです。もらってやって下さい。ジ・アースのテント(透明部部)の支持材です。(図解があって)この為の特注品です。体力が落ちたと思ったらバーベルにちょうど良いかと思い。 それじゃ アオヤギ」
とあった。

当オフィスには考えてみたら記念の品も飾りもない。あるのは反古寸前の本だけである。映像屋と称しているのに映像関係のものはほとんどない。家庭用の陳腐なマックとテレビがあるだけである。
青柳さんが夢の跡から回収してくれたこの支持材だったという不思議な形状の部品を、当オフィス開設いらいはじめてのオブジェとして飾ることに決めた。

映像を引き受け、いつかその映像からはなれ、夏の間、心を奪われつづけることになった、あのジ・アース館そのものを支えた核心のひとつ。それがいま目の前にある。
嬉しいじゃねえか。モノに淫することはないのだとずっと自分をとらえていたが、今日から豹変。おれの生涯のコレクションとしよう。

この部品は声をもたぬ。が、撮影してそのあで姿をVoicesに載せよう。
初夏から晩夏、初秋とむじなの森の風と光と嵐と夕日と月と蝉しぐれとカエルの合唱と鈴虫の声をたっぷりと孕んで、海原をゆく帆船のようなたたずまいで、記憶にロックされた我がジ・アースは、こんな金具?で守られていたのだ。
すべてのスタッフたちに、このことを知ってもらいたい。66万人の観客は、この金具で結ばれた巨大な帆布の下で悲鳴をあげ歓声をあげていたことを。

いや、アンちゃん、痛み入ります。
何よりの褒美をもらった気がしている。

午後の企画、これでうまくいけるだろう。


音楽は
SARAH BRIGHTMAN《EDEN》で、今日は突っ走る。あとかたもなくなったはずの我らが《EDEN》の形見の品が届いたので。