望郷の歌を書くことはない。
福島のサニー・アデ �|� 水のジ・アース �|� 森のジ・アース �|� 水のジ・アースの夕 �|� 薄暮のジ・アース �|� 儚

いま郡山の定宿。正午過ぎ。
渡辺が飯の途中であわくって持ってきてくれた数十行の新聞記事が、おれの寝ぼけ頭をぶったたいた。
時機を逸しただ。三日前の夜に、勢いのままに書くべきだった。三日間は動きを待つ、と自縛したことが、この結果になってしまった。
三晩の間、おれが会い話し闇の中で交わせたと思った人たちの胸の中には何が潜んでいたというのだろうか。彼らは何を伏せ、何をさらしたのか。
スクリーンそのものをぶった切り焔にしずめることまでシナリオに書き込ませておいて、どうやって梯子を外せたのか。
冷や水ぶっかけられた思いである。
足して二で割るなんていまどきガキでも使わねえような姑息な手を見つけて、これでひとまずと胸なで下ろしたか。
それがゆうべの奇妙な気配だったのか。

すべての資料を見直して、二年かけてやりとりしたメーリングを読み直して、このことにしぼる、四日三晩かけて考えつくしたことはただのポンチ絵だったか。

負けた歴史は情をこそはぐくむべきである。
この地にはぐくまれた情はどこに隠れているのか。あるいはそんなものは何もない。
負けるべくして負けただけ、そういう場所なのか。

熱がきゅうそくに引いていく。
この体温低下を、いまのおれは傍観することしかできない。永遠に続く引き潮の中に投げ出された、そういう思いがへどとなって奔出しそうだ。

時機を完全に逸した。
おれは文字通り、みごとなまでにドンキホーテである。渡辺にはこの暑い中、ほんとうに無意味なつきあいをさせてしまった。

くやしいよ。
この地に向けて望郷の歌を書くことは一生ねえだろう。地図の中の一つの記号にすぎない場所だ。