岩澤信夫談『生きものの豊かな田んぼ』
岩澤信夫談『生きものの豊かな田んぼ』.「不耕起栽培」と「冬期湛水」。「ふこうきさいばい」と「とうきたんすい」と読む。談話の主は千葉県成田市で稲作農家を営む家の長男ながら、家業は「両親と妻に任せ」て「果物や野菜の栽培法研究に没頭」と、プロフィール欄にある。

 不耕起栽培は田を耕さないで米をつくるということだし、冬期湛水は冬の間も田の水を張ったままにすることだと、説明されている(83p)。
 なぜ、不耕起栽培か。答えは「冷害対策と農家の作業の軽減が目的」(同)とする。冬期湛水は「自然の力だけで土の地力が高まり、雑草も生えにくく、農薬や肥料がなくても立派にコメができる」と説明する(同)。

 「機械化への苦悩」(116p)とする項目もある。農業。農協の示す方針にそって栽培して売れば国の補助金があり、機械化がすすめば機械メーカーに利益が集積、農業経営には借金がのこる。では、経営安定のために作ったものはまず自分で加工、独自の販路で附加価値を高めたいが、そうはいかない。

 国は展望のないものには補助をしないし、農協職員は責任をとりたくないだろうし、農家には販路も流通のノウハウもないとー、言う事か。
機械メーカーは余分な投資や新しい挑戦などより、既存のシステムで利益が確実に回収されると、言う事なし。
 話者が機械メーカーに叱咤する場面がある。「(農機具メーカーの)工場の跡にはペンペン草が生えるようになりますよ」(117p)。なぜなら「(農家は)借金が負担になって、ほとんどの農家はやめるか、破綻してしまう」(同)。

 「農協や肥料メーカーや農薬メーカーのほうで自分たちに都合のいい情報だけを選んで届けることになる」(142p)としたうえで、「(消費者には)今のうちにうまいコメの味を覚えさせて、農業にひきずりこむことはできないかとジジイは密かにたくらんでいるわけです(笑)」(150p)。
 生産者、提供者は消費者・利用者の「利用教育」が不可欠ということ、か。(『NHK 汁を楽しむ 人生の生き方 2008年8-9月』 日本放送出版協会 2008年)。