オイアウエ★★★★★
萩原浩著/新潮社刊
この小説が「週刊新潮」に連載されていたという後書きを読み、ちょっと驚いた。おれは週刊新潮を読むことはないけど、どんな人が読んでいるのか、皆目見当もつかない。過剰で辟易させられるような「笑い」の多用で始まっていく最初の数回分の連載で腰が引けたりしなかったのだろーか。気になる。さておき、めちゃくちゃ愉しめた。想像をはるかに超えた丁寧な書き込みぶりが、いつのまにか胸の中にその名もない南の島の地図を描いていた。潮騒。風のうなり。スコールの音と雨の匂い。生命力そのもののような植物。魚。獣。鳥たち。そしてにんげんたち。このままいつまでも物語が続いていけば…後半はそんな気分で何度も残りページを確かめた。そして最後のページにたどりついて、深い喪失感を味わった。濃密な島の時間を、1ページずつたどりながら同じ時間を生きてきたような、不思議な気分。読んだことで幸福になる物語。そういものが、ときにあるから、捨てたものではない。ここで拍手しても仕方ないが、萩原に拍手をおくりたい。
タイトルはしかし、「アイウエア」いや「オイアウエ」じゃなくても…と思っていたけど、読後三日経ってふと、これでいいのかな、とストンと納得。根源の話でもあるのだから。