資料/あめつちの酸素の神の恋成りて
2007年4月7日付・読売新聞編集手帳から
 石川啄木が盛岡中学のころに詠んだ歌がある。
「あめつちの酸素の神の恋成りて水素は終(つい)に水となりにけり」。
二級上の友でのちの言語学者、金田一京助の卒業を祝う席で披露したという。

満座が笑いさざめいたと、金田一は著書に記している。
水の化学的な成り立ちを神様の恋に見立てた戯(ざ)れ歌だが、
天才歌人は10代の半ばである。栴檀(せんだん)は双葉より芳し、
流れるような調べはさすがだろう。
あめつち(天地)の神々にとって人間とは、
ひとの恋路を邪魔する癪(しゃく)な存在であるらしい。

温暖化によって2050年代には、
新たに10億人以上が水不足の被害を受ける…。
国連の気候変動に関する「政府間パネル」作業部会の報告書に、
原案段階で盛られていた予測である。

2050年までに残された時間とは
東京オリンピックの年から現在までに流れた歳月と同じ、
顧みて、あっという間でしかない。

2国で世界の二酸化炭素総排出量の4割を占めながら、
削減に消極的な米国と中国を、温暖化対策にどう取り込むか。
悲惨な未来図は神々が人類に突きつけた問いでもある。

「結婚は実に人間の航路における唯一の連合艦隊なり」。
啄木はのちに自身の恋が結婚となって実を結んだとき、
感激を日記にそう綴(つづ)っている。
地球上の国々が心をひとつにして、神の恋を守る艦隊を組まねばならない。
(2007年4月7日2時13分)