匂うような音をつけてほしい
と、書き送ってから33時間後
七日22:00。mixが終わり居合わせた全員が拍手。
武田と握手し、一足先にスタジオを出た。
有栖川公園の脇でタクシーをやりすごし
夜風に吹かれタバコを1本、ゆっくり灰にしながら振り返った。

プロローグのナレーションが切所だった。
編集デザインを一新させさらに前にいけるとすれば
冒頭の3行を残せるかどうかが、分かれ目だったのだ。
残っていた。いや残していて、くれた人がいた。
何年もの間、ぎりぎりのところでトーンダウンを繰り返し
ここのところは戦う気分も萎えがちだった。
昨夜ダウンする寸前に小山から報告を聞き
いちどは消えかけたが
それを拒絶した人がいたことを知らされてはいた。
とはいえ最後にまたどんでんだろうとあきらめてもいた。
変わるつもりで取り組んではきたが
それは自らを鼓舞し、その日その瞬間を乗り越えるための
単なる手段に過ぎなかったのが本音。
人が変われば、風も変わる。
そういうことをしみじみと実感できた。
おれには、起死回生となる一本である。
六月七日は、記憶に残る夜になるだろう。
まだ、できる。まだまだダイジョウブ
有栖川の夜の闇に向かってそう呟き、タクシーを拾った。
月齢3.3夜。真性三日月がちょうど沈んでいった頃のこと。


------ Forwarded Message
From: Toru Mashiko
Date: Fri, 06 Jun 2008 13:04:11
To: <tojibu3>
Subject: [tojibu3:00394] 音仕込みチームへ

武田さん、古川さん、そして親愛なる井口さん

待たせてしまって申しわけありませんでした。
たったいま最後のコーションを入れ終わったところです。
これからコピーし、rスタジオに持ち込んでもらいます。
あと30分ばかり待っていてください。
1997年作の「120万分の1」から世紀をまたいで11年目。
湯治部積水ハウス映像チームにとって
いわばRe- bornムービーともなる一本ができつつあると、自負します。
演出として、全力を尽くしました。
山岡さんと福谷さんの力を余すところなく引き出し
相馬さん、古山さん、姉崎さん、渡辺の
体力と睡眠時間をぎりぎりまで使いつくし
映像的に、いまできることをやり尽くしたと思う。
ここから先は、あなたたちにすべてを委ねます。
思う存分、愉しんでください。
一緒に取り組んできた、あれやこれ
ぜんぶひっくるめて匂うような音をつけてほしい。
映像に最後にいのちを与えるのが
あなたたちの特権なのだから…

   2008.6.6 pm12:59 まな板の上のましこ拝


PS長岡へ
一昨年の秋、シーカスの撮影で奈良に向かうときに話しあった
もういどゼロから取り組んでみようという申し合わせを
思い浮かべながら取り組んだよ。
どの1カットにも胸を張って、どうだやっただろう、と今は言える。
台本をひさしぶりに書き出したとき、裏テーマをRe- bornとした。
ひさしぶりに初校を書き込みで、あの頃の台本のように真っ黒にできた。
このあいだ長岡に昔の台本をまとめて見せられ
鈴木さんからこのとこずっと台本なしですよね、と呟かれ
ちよっと落ち込んでいたけど、
1万メートルを泳ぎきったような気分だよ。
まだいけるじゃねえか、と思えたよ(苦笑)。
9日の夜には、だから乾杯だ。
古河山水で。