奈落。
疲労困ぱい、ではあったけどたしかに充実感も、あった。さて地上に上がって帰ろうかと腰浮かせたのが午後一時をまわったあたり。一緒に徹夜したKがため息つきながらちよっといいですか、と話しはじめた。それからジャスト2時間。スタジオの狭いロビーに座り気を失いそうになるのを出し殻のようなコーヒーと味がしなくなったタバコを気付けがわりに弁解と交渉とお願いの電話を手分けしてかけた。幸い相手が遠く離れていたので電話をかける合間の愚痴と罵倒で終わったが、同席していたらどうなったか。蛇蝎のような、というが、嫌悪を催させるという意味で、あれはまさしくその類い。その2時間で、ここ十日あまりコントロールしてきた自制がきれいに吹っ飛んだ。どうせfade-outするらしいからとアタマから遠ざけていたけれど。完徹の反動もあるのか。小賢しいだけのバカなのだと、しみじみ。テッペン気分から一気に奈落へ。越える情熱が、見当たらず。かきたてる意志もなし。爆睡のはずが、口から胃の辺りまでまっすぐに太い骨が刺さった気分でどうにも憂鬱。さて明日。おれはどんなキューを出したらいいのか。途方に暮れる。


19:20
シャワーを浴び外に出る。眠ったら明日の中途半端なMAVを寝過ごしそうで不安になったのでできるだけ起きていることに。夕刊紙を2紙買いカフェに。珍しく話し声が耳に障りコーヒーを1口飲んで出た。松竹撮影所跡地に。濃い緑の公園でベンチで新聞をじっくり読む。仕事帰りのビジネスマンが、まだ早いせいかやけに開放的な顔で行き交うのを眺めながら、金曜日だったことを思い出す。淡い風に吹かれ一時間あまりベンチでタバコを吹かしていた。気がついたら苛立ちがきれいに消えていた。というよりも、どうでもよくなっていた。そしていままで一度も抱いたことのない思いが浮かんだ。おれはなぜ仕事を続けているのだろう?さらに3本タバコを灰にしたが何の答えも見つからず。考えるのを放棄した。暮れかかった夕空に、どうでもいいよ、と何十万も書かれているように感じた。静かな気分になり、どうでもいいんだと不思議な発見を噛みしめるようにして部屋に戻った。今日が暑い一日だったらしいことに、家に戻ってから気がついた。