バカやろーに見送られ、バカやろーが逝った。
須田、日比野、渡辺、井沢、西山、本間早苗以外に知った顔無し。予想以上に仕事関係の参列者がいたことにふしぎな驚きがあった。と同時に安堵も。横江の話では、あるいは雪かもと覚悟していたので着込んでいたが拍子抜けするくらいに温かく春の宵のようだった。香典を包みながら、なぜ見舞いではなく香典になってしまったのかという想いが消えなかった。NHKのそばで日比野を拾い迂回しているうちに飯田橋に出た。一緒に過ごしたオフィスの入っていたビルを横目に高速に乗った。土曜日にあいつの家で夫人が選んだ写真が飾られていた。関係者から、もっと地味なものにすべきだと反対されたらしいが、家族の意志として通したとのこと。麦わら帽を背に、涼しげな色のシャツを着た彼のウエストショット。背景は庭の緑。ちょっと照れたようないい笑顔だった。斎場は深い闇の中にひっそりと建っていた。外に出て暗がりにたたずみタバコを灰にした。一本はあいつのために、もう一本は自分のために。チェーンスモークを何度か繰り返す。寂しげな街灯の明かりの輪の外から、わりいわりいと頭をかきながら彼がひょっこりと現れる…そんな気分が少しだけあった。どこかで、何も認めねえよと想い続けていたけど、たくさんの参列者の群れを見ているうちに締めつけられるような気分にも襲われた。ビールとウーロン茶で誰が言い出したのか献杯の声。次々と献杯とつぶやきグラスをかかげた。バカやろーに見送られ、バカやろーが逝った。娘たちと、あいつのことを話す時間をつくっていくことを約束。井沢と安里は譲治の車で大宮に。日比野と本間早苗は渡辺の車で東京に。闇の底で別れた。