秋のシャンソン
なぜ、あんなどうでもいいことに腹を立てたのか。いや、立てたようにふるまってしまったのか。怒ったつもりが怒りきれずに過ぎていくようなことで、なんだかうんざりするような夜になった。このところ、そんなことが多い。切りたいなら切ればいいだけのことをコトバだけエスカレートさせている。見場の悪い時間がふえている。自重する以外にねえな。

別件。
ひさしぶりですね、と言ったら、照れたような笑みを浮かべていた。ゆうべ考えた世迷言は、もしかしたら当たっていたのか、ときもちがゆらいだ。ときどき顔を見た。打ち消す気分とうなずく心と交互だった。気配こそが、と考えれば、あれはまさしくそうなのだと、後ろ髪ひかれる思いで後にした。咳のひとつに吹き飛ぶような気配ではあったが。

また別件。
不思議なもので、うずくような感覚がすっかり消えていた。まさかと思いながら、たしかめようと近寄ってみたが、突きあげるような気分がすっかり消えてしまっていることに少しあわてた。おかしな迷路のようところを行きつ戻りつしているだけではなかったのか。どう、したかったのか。どこまでいきたかったのか。皆目わからなくなっていた。空気が抜けてしまっていたというほうがあたっているだろうか。つまらねえな、というしらけきった気分に満たされ、徹夜で白んだ視界がさらにぼやけた。気づいたときはゼロだった。あのおびただしい数が、まったくのゼロ!熱でも出たのかと疑ったが、平熱。ようするにつっかえていたものが外れてしまったような感覚。ああ。過ぎたんだな、とわかった。怒りも慕情も根っ子はひとつ。感傷。だ。

1000という数字になぞ意味はない。意味はないが、しかし堆積されてしまった時間としては意味を問わざるを得ない。ここは牢獄ではないのだから。すべては欲するままにあったことが、欲する状態が霧消してしまった、それだけのこと。おれはなにをカンチガイしてたのか。別れを告げる意欲すら失せている。