のちのおもいに
《東京に未練はなきを肩にふる九段の桜 白山の雪》とふられた
コンビ結成20周年記念の短歌絶叫コンサート
「転調哀傷歌」CD
「弔い」ちくま新書
「朔太郎感傷」河出書房新社
現代歌人文庫「続福島泰樹歌集」国文社

福島さんからいただいた。


とても、仕事どころではない。
まいったな。

「転調哀傷歌」を聴きながら
この名を持つ歌集を読みふけった
二十代の無為の日々を思い出す。

矢口ノ渡。
多摩川べりの河口近くにたった
安普請の「マンション」。
正しくは「神庭マンション」。
仕事につくこともなく
その神の庭の一階の103号室で
十年近くを暮らした。

日課といえば
あてもなく多摩川べりを歩くこと。
「麗蛮」という名のコーヒー店で一杯のキリマンジャロを飲むこと。

暮れていく空を眺めること。


何を求めて何を願っていたのか
まったく空白の二十代を
共に過ごしたのが福島さんの
「エチカ・1969年以降」
「風に献ず」
「晩秋挽歌」
「転調哀傷歌」
などだった。

焦りもいらだちもなく
老人のように過ごした日々だが
ごくまれに抜けられない地獄の時間があった。
そんな折りには
福島さんの歌がひときわ救いとなった。

  「まあ、いいじゃねえか」

ただの一度もお目にかかったこともない
ひとりの歌人が一升瓶を片手に
目の前で敢然と微笑んでいるような
幻想を抱いた。


俺は酒を飲まぬが
彼の歌はいつも酒とともにあったように感じる。

幻の酒。


どう書けば、いいのか。
胸が、つまっている。

そのことだけを書いておきたい。

福島さん、ありがとうござました。