啓示というわけでもないか
唐突に夏日になっていた。
気を取り直し、ことしはじめての白いズボンを穿く。
半袖のポロシャツ。夏。
渡辺のクルマに向かうまでの
わずか10メートルに満たない距離を歩く間に
強烈な陽射しが体の隅々まで染みとおっていく感じがあった。

一年前のむじなの森には
こんな陽射しの日がよくあった。

その森は跡形もなく、
ぽちの行方もしれない。


思い出すともなくいくつかの短い森の夏が過った。


クルマ。
渡辺はゆうべオフィスにたどり着きそのまま倒れ込んだらしい。
それでも朝には起きて、コメントのタイミングをチェックしたとか。
やらなくてもいいよと言っておいたが、おかげで大助かりだった。

いつものコースで広尾に。
予定とより少し遅れてスタジオ。

音楽を敷いているところだった。
2時過ぎからナレーター。
5つのプランを彼なりの解釈でトーンを変えてくれた。
こちらからあらためて指示することもなし。
仕事が独り歩きし始めているのをやっと実感。
勝ったな、そう思えた瞬間だった。

武田くんと細部をチェックしながら録音をすすめる。
一時間あまりでアップ。
ロビーではイングランド-ブラジルが佳境に。

4時過ぎから効果音の貼り付けに入る。
そして今、4時半過ぎ。


「ここでは…」が己のものだけに
各プランをどれだけ盛り上げていけるかが
自らに課したハードルだった。


荒編集で徹夜4日。
本編集で2日。
わずか10日あまりで6日の徹夜の果てに今日がある。


他人のプランをどう表現するかという
自分としては手がけたことのない試みだった。
振り返れば、
他人の書いたものをカタチにする仕事を引き受けたことは
はじめて。
フォーカスが合わないままに進めざる得なかったことが
果たして良かったのか悪かったのか。

細かなSEが付け加えられ
映像に厚みが増していくのを横目で見ながら
まあ、いいじゃねえか、
と思えている。


どんなふうに受け入れられるかは
もうどうでもいいのではないか?


疲れた時間の堆積の彼方に今日のこの時間があるが
ふしぎとイヤになってはいない。


一歩も引くことなく
前にだけ歩を進めて来ることができたな
そんな気分がある。


なぜかと
問うてみるが、まだ
答えはでない。


この仕事が
まだ夢想だけを集めたものであること…


あるいはそこに
そこだけに答えが隠されているのかな。
そんなふうにも思えだしてはいる。


夢や思い
だけを集めたパンドラの箱。

たぶんそれが答えのはず。


とすれば
これからおれがどんな仕事を
引き受けていけばいいのか
あるいはそうしなければいけないのか。

つかめたのではないか?



疲れ切ったはずの時間を
疲れを感じずに乗り切れたのは
そういう啓示が秘められていた…


そう受け止めてみたい。
この仕事は
思いがけないことに
ターニングポイントになるだろう。
この一年、それが「水の惑星」の意味だと思ってきたが。
あれは先駆けだったのだ。





ポジティブ野郎なのである。おれは