《森のひと》全文
  『森のひと』 安藤栄作


ある時、宇宙の神様が命の笛を吹いた。
神様はその音が大好きで、とても幸せな気持ちになった。
その響きは虹色に輝き、ゆっくりと宇宙に広がっていった。

大河の流れのように、大海原をいく波のうねりのように、
その音はゆったりと、ゆらいで、真暗な世界に幾筋もの光を引いた。

ずいぶんと遠くまで旅を続けた青い色の音が、
宇宙のかたすみで青く光る星になった。
そして、その星には青い魂を持った精霊たちが生まれた。

空は澄んだ心のように青く、吹く風は、
子にふれる母親の手のように草原を渡った。
鳥は光の子のように羽ばたき、魚は天の川のように泳いだ。
大地は精霊たちの祝福の歌で揺れていた。

その中に物を造ることが大好きな精霊がいた。
それはとても楽しくて、来る日も来る日も新しい物を造った。
ある時顔を上げると、大地が彼の造った物でうまっていた。
他の精霊たちは居場所がなくなり、少しずつ姿を消していった。

みんながいなくなることが寂しかった。
再び帰ってきてほしかった。
目をとじて、ずっと昔の事を想ってみた。
彼の魂がまだ青い音だった頃、
みんなと宇宙をゆっくり旅していた頃のこと。
すると、忘れかけていたあの音色が心に響いた。

神様が吹く、命の笛の音は虹色に輝きながら今も私たちを包んでいる。