「ゆらぎの話」 安藤栄作
「ゆらぎの話」 安藤栄作
      河北新報より 


みなさんの心は、ゆらいでいますか。

彫刻を続けて見えてきたことがある。
命の輝きのライン、ゆらぎだ。

古今東西を問わず、
素晴らしい彫刻は皆、生命感に満ちている。
彫刻が工業製品やオブジェと明らかに違うのは、
それが生き生きと、そして、みずみずしい点だ。
いい彫刻は外側でなく内側を作っている。

大地の形が地球内部のエネルギーの現れであるように、
彫刻の形もその内側のエネルギーを
見続けた結果現れた形だ。
それがなければ彫刻は魂を失ったのと同じだ。

その内部のエネルギーは、
ただポンとあるのではない。
それはゆったりとゆらいで流れている。
一見ストンと立っている彫刻でも、
いい彫刻であれば必ずこのゆらぎを宿している。

この宇宙が生まれる時、
無の中に唯一あったのが、ゆらぎだという。
ビッグバンの後、
ゆらぎはこの宇宙すべてのものの中に
スピリットとなって受け継がれている。

空間の一番近い距離を走る稲妻でさえ、
大きくゆらいだラインを描く。
大地の低い所を選んで流れる河川は
山奥の水源から海に出るまでに、
とても美しいゆらいだラインを引く。
大地の形を変えることなく、
歩きやすい所、安全な所を通ることで
自然にできた昔の街道は、
うねうねとゆらいでいて心がほっとする。
山脈の稜線や空に伸びる樹木にも
心地よいゆらぎのラインがある。

みなさんの手を眺めてほしい。
そこには、あの稲妻や河川と同じゆらぎのラインが
血管や神経となって走っている。

私たちの体は、夜空に横たわる、あの天の川と同じように、
宇宙の始まりのゆらぎのスピリットで満ちている。
それは命がキラキラと輝いている証なのだ。
そして野山が風でゆれるように、
私たちの心も絶え間なくゆらいでいていいのだ。
それは心がキラキラと輝いている証なのだから。