春雨じゃ、とは言いながら…
オフィス。

葉桜に春の雨。
春雨はなぜ、こんなやさしげな降りかたをするのか。

立ち止まって、しばらく雨を受けていた。
ぬれたのか、どうか。
気配のような、雨。

風情のある女に愛撫されているようで
なんともなまめかしい午後だ。


そんな気分でオフィスのドアをあければ、
ひげ面の男が待ち受ける。
胴間声で「おはようございます」と。
午後も三時を過ぎて「おはよう」なのである。
これから俺はこのひげ面と艶めいた春の夕を過ごすのだ。
狂い咲きの花が散るのを愛でることもなく。


ああ、我が人生は…