夜の犬と女とガーベラと。
ひさしぶりに仕事で築地に向った。
相馬さんに三ヶ月ぶりですね、と言われた。数えてみれば四ヶ月が過ぎている。
鈴木完周さんとばったり、8月12日の濃霧の須賀川で別れて以来だった。顔を見ると、ふと明日にでも福島にロケに向うのだと錯覚した。完周さんもふわっとそんな気分におそわれたように見えた。顔をくしゃくしゃにして握手を求められた。できたこととできなかったこと、いろいろあったが、一年半にわたり、福島の山と川と村々と海を巡った年上の親しい友に思いがけずに出あったようで、鼻の奥がつんとした。
この頃のおれはやけに涙腺が弱くなっており、なにかにつけてこんなふうに鼻の奥が痛くなる。
握手して別れ、会議室へ。
きっちり3時間、話す。
途中で小腹が空いたので、制作の阿部君に頼み、そのへんに隠ししてあるスナックを確保してきてもらう。けっこういろんなものが集まって気を良くした。

終わって外へ出た。クルマを回す渡辺を待つ間、ふらっと聖路加の方に歩いた。向こうから30歳くらいの女が猟犬のような立派な犬を連れて歩いてきた。場所柄、ちょっとおどろいたが、しばらく見とれていた。姿勢と歩き方のきれいな女だった。犬もなかなか立派で、さすがに雑犬のおれとはずいぶんと違うなと感心。なつかしの「ふく源」の中にでも消えていくのかと思ったら、電通本社の先を右に折れて消えた。
渡辺が言うには「120点」。女と犬のことではない。今夜のおれの社会復帰の出来具合のことだ。20点というのはどこをさすのかわからぬが、満点を越えたのなら、ま、日常に戻れたということか、な。

オフィスに戻り、電気をつけると、机の上で3輪のガーベラがひっそりとほほ笑んでいる。CDプレーヤーに「Besame Mucho」を載せ、音を絞って再生する。

さて、これから一仕事。
オフィスが仕事の場所であることをすこしずつ思いださねば…