《女鬼》は、こんなふうにはじまる。
 秋の
 おわりの山は
 黒ぐろと深く
 吹きぬける
 風に答えて
 ボー ボーと
 あちら こちらで
 声をあげる
 その声を遠くに
 ききながら
 小さな村の
 人々は
 自分の心を
 のぞきこむ
 そうして
 長く暗い冬の間に
 何度も
 わけもないのに
 ためいきを
 する

        今井保之《女鬼》より