3人と60万人
何しろ月の出の冒頭すぐに福島さんの朗詠で「万物は冬に雪崩れていくがいい追憶にのみいまはいるのだ」と吠えたて、狼の遠吠え、立原道造の詩、古歌と続く。ほうぼうで掟破りだの文法知らずだのと言われた月の出5分1カットプロローグは、βカム素材とは言え見惚れるばかりの凄絶さがある。

と書いたのが8月半ば。
いまいちばん信頼している眼力の持ち主に、偶然《光の日本》を見てもらう機会をもてた。
懸念通り、時間稼ぎのために挿入したシーンについては「冗長だ」と指摘されたが、
もっとも危ぶんでいたプロローグとエピローグの山の昇月、海の日没については激賞された。あちこちで批判されたパートだったが、思いがけない褒められかたに我を失った。
福島泰樹さん自身と駆け落ちした畏友加藤賢明のほかに、ここまで褒めてくれたのは三人目。
十年で三人。嬉しかった。忘れかけていた世界だけに、心が溶けた。
これで大手を振って《光の日本》の世界を完全に否定できる。新しくデジタル・ジャパネスクをスタートするにあたって、迷い続けた想いを完全に払拭できる。
まったく異なる水平線を描けばいいのだと、思い知った。

むじなの森では、今日24日中に《ジ・アース》の観客が60万人を突破するらしい。
八十日間で60万人。これもまた甘美な数字ではあるが。