十年ぶりに《夏の弔ひ》を読む。
久しぶりに立原道造の《夏の弔ひ》を読む。《風のささやんか村》で使っていらいだ。むじなの森があと七日となって、読んでみようか思った。


   逝いた私の時たちが
   私の心を金にした 傷つかぬやう傷は早く復るやうにと
   昨日と明日の間には
   ふかい紺青の溝がひかれて過ぎてゐる
   投げて捨てたのは
   涙のしみの目立つ小さい紙のきれはしだった
   泡立つ白い波のなかに 或る夕べ
   何もがすべて消えてしまった! 筋書どほりに
   それから 私は旅人になり いくつも過ぎた
   月の光に照らされた岬々の村々を
   暑い 乾いた野を
   
   おぼえてゐたら! 私はもう一度かへりたい
   どこか? あの場所へ 
   (あの記憶がある 私が待ち それをしずかに諦めた……)