水の精、我らを見捨てず。
水の精、我らを見捨てず。


もろ人こぞりてはや五日。
三日目、四日目と三月下旬の陽気となり、
記録破りのさすがの豪雪もあっというまに数十センチ単位で
みるみるうちに溶けていくのを、指と溶けかけたつららを銜え
我らはひたすら水の精に願を掛けつつ待ちました。

あけて五日目の七日朝。
窓の外には待望の雪。ただし勢いはいまいち。
もろびとたちはそのかすかな降雪に希望を見いだし、
勇んで宿を飛びだしていった。
雪を見たワタシは、安心して再び布団に。
朝風呂でぬくもったカラダとほっとした脳は爆睡を求め、
気がつけば昼を回っていた。
部屋に運んでもらった「プランチ」を腹におさめ、
迎えの渡辺車に乗り込む。
雪の勢いは、弱い。プレロケハン、ロケハンと真っ白だった
曲家と続く村道は、すでに路面が見えている。
まわりの家々の雪もはんぶんは落ちてしまっている。
わずかに降り続く雪をうらみと期待といりまじった気分で
ながめながら現場に到着。根をあげないスタッフたちが
黙々と夕方の一瞬に備えて準備している。
雪粒は小さく、ときどき雨がまじる。
ワタシはなかばあきらめつつ、待機場所になっている集会所へ。
ぼんやりと窓から外を眺めつつ、時期を改めて出直すことを
考えはじめていた。そのことをプロデューサーにどう切り出すか、
鬱々としているうちに、出演者の豆剣士たち十人が登場。
元気な声で挨拶され、お菓子などもらううちに、
やるだけやるか、と気をとりなおす。
けいこ着にきがえる豆剣士ご一行を残し、カメラポジションに。
撮影部、照明部、美術部、特機部、制作部…
もろびとは迫ってきたシュート時間に備え、必死の形相である。
撮影監督の鈴木さんは、例の杖をさすりながら
「雪よ降れ、大粒の雪よ降れ」と繰り返している。
前区長をはじめ集落の人たちも心配そうに空を見上げている。
撮影部の吉田君から「急げ!」の伝令が飛ぶ。
豆剣士OK、巨大犬ラブと少女たちOK、台所の奥さんOK、
障子の向こうの父親と息子OK、照明部OK、美術部OK、
特機部OK、もろびとたちからもろもろOKの声が集落にこだまする。

そのときである。
その刹那である。

降る雪の勢いが急に強まった。
ライトに照らし出される、雪粒が急に拡大した。
3D大型映像にふさわしく、弱々しかった雪が飛び出すように強まったのだ。

で、息つぐ間もなく怒声の中で連続5テイク。
撮った。ついに撮った。
21世紀へとつながる、水の惑星のそのいのちそのものが生まれるにふさわしい
誕生のシーン、生まれました。
二年ごしの挑戦、ぶじ成功しました。
46億年の水の惑星の奇跡の果てに、さらにつながる奇跡の日々の未来。
そのことを来場者の心にしのばせるための不可欠のフックこそが、
本日の「雪の中の誕生」シーンです。
ともに喜んでください。

観客が感客へと変身する最大の「かくし味」が本日のシーン。
福島各地で撮ってきた水の光景と宇宙と46億年の生命進化CGとが
ひとつの世界として成立していくために不可欠のシーン…
演出的には、これで終わりです、と言いたいくらい嬉しい夜になりました。

もろびとが男性たちでなかったら抱きしめてキスの雨を降らせたい。
演出的には、そういう夜です。


なお、昨年の設定と異なった
豆剣士たち、巨大な犬と遊ぶ少女たち、父と子の影絵などの彩りは
「いのち」のいぶきを強めたいという狙いで追加しました。
カメラがゆっくりと寄っていくその先にある「生田産院」で産声をあげる
21世紀ベビーがパラレルに若いいのちの象徴として存在している、
そんな気持ちがありました。
別な言い方をするなら、躍動感を付け加えたかった。
産院を背に駆け抜けていく豆剣士たちは、どこへ向かうのか。
どんな明日に向かっていくのか。
ま、そんなことを思いながら付け加えました。


舘岩村湯の花の窓の外では、しんしんと雪が降り続いています。
階下からはもろびとたちの祝杯の歓声が聞こえています。

会津と東京、離れてはいますが、
乾杯の杯をかかげます。
東京のスタッフのみなさま、乾杯。
もろびとより愛と満足をこめて。



     2001年2月7日夜  舘岩村湯の花温泉にて M