NHK「そして歌は誕生した」は★★★★★
ひたすら寝正月。
かぜぎみだったこともありテレビと小説で三が日が過ぎた。
今年はどこにも賀状を出さなかった。
今日あたり書かなくちゃな。
東北に大雪警報。会津、いよいよ雪の季節か。

昨夜、ぐうぜんNHKの「そして歌は誕生した」の総集編を観た。
やっていたのは「石狩挽歌」「神田川」「風雪ながれ旅」の三集分を
ピックアップしたものをスタジオで紺野と田村でふりかえるスタイルの
一時間三十分枠。
感動した。NHKのレベルの高さにあらためて腰を抜かした。
一つの歌が生まれ落ちる瞬間にどんなドラマがひそんでいるのか。
コトバはどうやって紡がれ、旋律はいかにしてカタチをなすのか。
ぼくが知るかぎり、いままで読んだどの詩論にもない、すぐれた
リアリティと肉体を感じさせてくれた。
高校や大学での現代詩の講義はNHKがつくったこのすぐれた
ドキュメンタリーを見せるだけで十分なのではないか、と思える。

あの頃同時代を生きた身には、神田川の甘さが鼻持ちならなかったが、
喜多條がなぜ、あの歌詞を書かねばならなかったか、最後の一行に
どんな意味と断念をこめたのか、痛いほどに伝わってきて、
その語り口に思わず泣かされた。
民放だとここはすっきりまとめちゃうだろうなと想像できるところを
ことごとく丹念に語るに身を預けるようにしてカメラは拾っていく。
それをみごとに掬い上げ再構成する力もまた淀みない。

なかにしの「石狩挽歌」はさらに歯ごたえがあった。
高橋竹山の数年ぶりのバチの冴えもさることながら、竹山の顔のとらえ方が
また素晴らしかった。撮影する側の敬意と愛があふれるようなカメラワークだった。

ぼくはNHKが嫌いで、
なぜ嫌いかというと、ひたすらつまらないからなのだが、
いままでどうしても仕事で必要なサイエンス系のものしか見てこなかった。
役には立ちながら、しかしなんとヘタな貧しい作り方をするのだろうと
いつもあきれ果てていた。
視聴料というのはもちろんただの一度も支払ったことはない。

だからこの「そして歌は誕生した」という番組が数年にわたって
オンエアされていたこともまったく知らなかった。
無知は怖いな、としみじみ思う。
昨晩見せられた一時間三十分の存在だけで、十二分に視聴料を払う価値がある。
今月から喜んで支払おうと思う。