暮れては 反古のすずしい重みを愛した あなた
「まず私服の蛇を遠ざける
みぎれいな乞食(かたい)を屈ませ
ひなびた必須をひねり
かじかんだ呼鈴をむしり
雪譜も埋まる雪のなか
ひえるくるぶしを谷水にすすぐ
あなた

むなびれで顔をかしぎ
死の呼び水でやさしさを漉き
おびただしい男斧のほおばりに疲れ

暮れては
反古のすずしい重みを愛した
あなた

ほかびとにきかれまいと
鈴に石をつめかける
あなた
その措意も
しおりのようにくるぶしをすべった
こわれかけた蛇が
はじめて意志を懐胎し
時の落丁にあたる
その夕やみに連座し
にじますは虹と訣れ
朝は逝く

雪譜のかろさよ
非にもみぞれ」

荒川洋治「娼婦論」より


シナリオ第二稿の改訂アップ。ひと息。