オースミダイナー物語 第2回
同一重賞4連覇。故障も多い競走馬が、そもそも5年続けて同じレースに出走し続けることが至難の業なのに、それを勝ち続けるというのは常識を超えている。しかも、通常なら競走馬としてのピークをとっくに過ぎている10歳からの連覇となれば、これはもうギネス級の記録だ。驚くよりほかにない。
 その「瑞穂賞」(9月19日、ダ1600m)で、5連覇の偉業に挑むオースミダイナー。この夏は、涼しいを通り越して寒いと感じる日も多かったこともあって、元気一杯だ。蹄鉄の擦り減るのが早く、打ち替えが多いため、エトワール賞の直後には蹄が痛んでいたが、その状態を良化させるため、蹄鉄を打ち替えないで3週間ほど軽い調教を続けた結果、いつでもレースに使えるぐらいまでに回復した。その後も体調の変動はなく、瑞穂賞に向けては何の不安もなく、調整が進められている。
 瑞穂賞は、昨年までゴールデンウィークに行われていたが、今年の番組改編で初秋の旭川開催に移された。例年、夏場を境に下降線に入りがちなダイナーにとっては、5連覇を目指すレースの移動は厳しい変更だった。しかも、瑞穂賞に出走するために

は「年内3走以上していること」という制約が付けられてしまった。赤レンガ記念、ステイヤーズカップを使った後は一息入れて、といきたいところだったが、もう1回走っておかないと大目標のレースなのに出走すら出来ない。「1走1走が引退レースのつもりで出している」と常々口にする若松平調教師が、当初予定になかったエトワール賞に出走させたのは、実はそんな理由もあったのである。
 そのエトワール賞で見事な快速ぶりを披露し、「まだまだ大丈夫」と強烈にアピールしたオースミダイナー。「同一重賞5連覇」への期待は高まるばかりだ。
      ◇   ◇   ◇   ◇  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇
「若さの秘訣? うーん、やはり食欲が一番なんじゃないですか」
 13歳となった今でも、食べる。とにかく食べる。若駒にも全く引けを取らない食欲。カイバ桶からこぼれた燕麦(えんばく)のくずを、丁寧に、なめるように全て拾って食べてしまう執拗さ。一粒も残さず食べてくれて、厩務員さんの掃除の手間も省けてしまうので、みな感心しているそうだ。調教に出ていく前には、厩舎の出口に掛けてある燕麦のえさ箱に顔を突っ込み、口いっぱいを含んで調教に向かう。お行儀悪い?この「行為」が許されているのは、ダイナーだけだ。調教が終わり、戻ってくる道すがら、通路脇に生えている良さそうな草を見つけると、立ち止まっていつまでも食べているという。
 「大目に見てるんですよね、ダイナーは。まぁ、普通は走らない馬に限ってよく食べるんですけど、この馬だけは別格ですね」と若松師。
 通常、食べさせている量は他の馬と同じだそうだ。1日3回、1回あたりの量は1.5~1.8升で、その中身(1日あたり)は燕麦5~6升に加え、ふすま、カルシウム、塩、ビタミン剤、リンゴ、ニンジ
ン、ガーリック(にんにく)など。中でも「にんにく味噌」が大好物で、スタミナ維持のため欠かさずに与えているという。
 だが、そこは健啖家のダイナー君、勿論それだけで足りるはずはない。放っておくと寝ワラにまで手をつけてしまうので、ダイナーの馬房だけは「オガクズ」が敷き詰められている。夏はまだしも、ふかふかの寝ワラの布団とは違い、冬はたいそう冷える。「本当は暖かくして快適に過ごさせてあげたいんですよ。でも、食べてしまうんじゃねぇ」
 それでも、風邪なんかひいたことはないし、鼻水もたらしたことがない。下痢も便秘もほとんどない。内臓が丈夫な証拠だ。歯も丈夫で、噛み合わせもスムーズ。食いの悪い馬は、やすりで歯を削ったりもするが、ダイナーは歯の治療なんてしたことがない。
 内臓や歯が丈夫だから、心ゆくまで?食べられる。その旺盛な食欲ゆえに、13歳の今まで若さとパワーを保つことが出来ているわけだ。
 そんなダイナーにも、満足に食べられない、つらい時期があった。     (続く)

      ◇   ◇   ◇   ◇  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 現役最高齢馬・オースミダイナーが、13歳の今まで一線級の競走能力を維持できた背景には、自らの運動能力・身体機能のレベルの高さもさることながら、それらを衰えさせなかった厩舎関係者の人知れない努力の数々があります。現在の状況と併せて、人間に例えれば「中年」に相当するオースミダイナーが今でも若駒たちを圧倒する能力を発揮できる秘密等を、エピソードを交えながら紹介していきます。お楽しみに。
 なお、本連載はJRDB・古谷剛彦(ふるや・たけひこ)および北海道競馬運営改善対策室・神谷健介(かみや・けんすけ)が担当します。