横断歩道のお話
ある町の小学校の通学路に信号の無い横断歩道がありました。

近くに住む小学生の女の子が学校へ行こうと家を出ましたが、傘を持っていくのを忘れました。

集団登校なので他の子から「傘が無いと雨がふるぞ」と言われて、どうしようかと迷いながら横断歩道まで来たところで、雨がポツポツ降り出しました。

横断歩道の途中で、やはり傘を取りに行こうと戻ろうとしたところに車がやってきました。

女の子のお母さんは、娘が傘を忘れたのに気が付いて、持って行ってあげようと傘を持って学校へ向かっていました。

そして横断歩道まで来たところで、横断歩道を戻ろうとして女の子が轢かれてしまったのを目撃してしまいました。

女の子は、病院へ運ばれましたがかわいそうに亡くなってしまいました。

お母さんはショックを受けて深く深く悲しみました。


やがて数年が経ち、その横断歩道で交通事故が続いておきてしまいました。

テレビ局が霊能者とレポーターを連れて撮影にやって来て、霊能者は「これは、この横断歩道で死んだ女の子が成仏できずに寂しくて他の人をひきこんでいる」と話して、その様子が放送されてしまいました。

付近の人達は事故から数年も経ってるしテレビ局が無責任な事を放送してると憤りましたが、その話は事故で女の子を亡くしたお母さんの耳にも入ってしまったのです。

お母さんは、もしかすると娘が成仏できずにいるのかも知れないと思い、また、もしも娘が事故をおこさせているなら申し訳ないと思うようになりました。

それから、お母さんが横断歩道の横に立って、誰かを探すような様子をしながら、小学校を通学していく子供達を見守るようにしている姿を見られるようになりました。

お母さんは、雨の日も風の日も横断歩道の横で横断歩道を小学生達が渡っていくのを見守っていました。

お母さんのご主人が何度か止めさせようとしましたが、お母さんは止めずに毎日毎日横断歩道に立ち続けたのでした。

その日も雨が降っていました。

お母さんは横断歩道に立っていましたが、連日の疲れもあって意識が朦朧として、このまま轢かれて娘の元に行きたいと思うと、そのまま足が前へ出て横断歩道を歩き出しました。

横からは車がやってきて、お母さんが轢かれそうになったときに、「おかあさん!」と声が聞こえたような気がすると何かに突き飛ばされるようにお母さんは後方へ倒れました。

お母さんは無事でした。

お母さんには、どこからか娘がやってきて自分を助けてくれたように思えたのでした。

お母さんは泣きました、涙が止まりませんでした。

やがて、知らせを受けたご主人に抱えられて帰っていきました。

その日から、お母さんが横断歩道に立つことは無くなりました。

しばらくして、お母さんはご主人と一緒に引っ越して町を出て行く事にしたそうです。

お母さんが町を出てから、横断歩道にようやく信号機がつけられたそうです。