曲がり角の悲劇 03.05.11
 下北沢に着いたのはAM10:30頃でした。道が分からなかったので早めに行ったのですが、縮尺こそ怪しいものの地図通りのところに目的の東演バラータはありました。適当に時間を潰して、会場時間を待ちました。その頃になると、出演者だというのに岡田純子がチケットのことや場内のことを忙しなく気にしていました。なんだか、開演ギリギリまで姿を見せていたように想います(苦笑)。
 プレハブか?と思ってしまうような外観ではありましたが、中は階段状の芝居小屋で、イスも出ていて見やすいカンジです。前から5列目、高さにすると3段目の中央あたりに席を取りました。ひとりきりで来ると、妙に寂しいものがあります。

曲がり角の悲劇 at 東演バラータ
 海のない国と風の国、隣あった二国の戦争から舞台は幕を開けました。
 切り結ぶ兵士たち、海を求めて戦う海のない国の兵士が優勢のまま場面がかわります。
 戦闘も終わり、静まり返った戦場にボロを着た集団が姿を見せます。彼らは乞食。落ちているものを拾い、食むことで日々の糧としている者たちです。そのうち、乞食のひとりが横たわる兵士を見つけます。腹を裂かれながらもまだ息のある兵士が息絶えるのを心待ちにしています。「若様」と呼ばれる乞食のリーダーは「生きているものからは奪わない。落ちているものを拾うのが乞食だ」というポリシーを持っていますが、その一派は必ずしもそうは思っていないようです。やがて兵士が息絶えると、剣や装飾品を奪い始めます。そこに海のない国の兵士がひとり、戦に疲れた様子で現れます。乞食の姿を見ると、剣を振りまわして「おまえ達には勇者の遺体とただの死骸の区別もつかないのか!」と追い払い、「戦場で会えば敵だが、今はお前の姿に同情する」と漏らしているトコロに鋭い眼光の風の国の剣士が姿を見せます。
 風の国の戦士が死体と、海の国の剣士を見比べ「この男をこんな姿にしたのはお前か?」と問い掛けると、海のない国の剣士は否と答え、剣を構えて勝負を挑もうとします。しかし、風の国の戦士は落ち着き払った様子で剣を収めるように言います。すでに戦も終わっている。見逃してやるから国に帰れ、と。しかし海のない国の剣士はそれを聞き入れずに切りかかりますが、あっと言う間に剣を弾き飛ばされてしまいます。首筋に剣を当てられて、海のない国の剣士は死を覚悟します。しかし、風の国の戦士はそうはしませんでした。そして、「お前、人を殺したことがないだろう」と問い掛けます。海の国の剣士はやはり、否と応えますが、「ムリだ。お前に人は殺せない」と言い放たれます。風の国の戦士が死体となった戦士を弔いながら「かわいそうに、この男は戦場に出るのは今日が初めてだった。オレの国では男は全員戦士になる。お前の国でもそうか?」と尋ねると「そうだ」と応じる海の国の剣士に「馬鹿げた話だ。戦うことが似合わない男もいる」と言うと、「オレの国ではそういう男は臆病者と軽蔑される」と応えます。そういうやり取りの後、「お前は人を殺すなよ」と言い捨てて風の国の戦士が立ち去ろうとするところに、先ほど戦場で戦っていた海のない国の剣士の一団が現れます。すっかり囲まれてしまった風の国の戦士は、剣を捨て、捕われてしまいます。この戦士こそ、戦場で海のない国の剣士を数え切れないほど斬り殺し、目を合わせて生き残った者はいないと恐れられ、国の名を取って「カゼ」と呼ばれる戦士なのです。そして、その男と一対一で剣を交えてかすり傷ひとつ負わずに生き残った剣士は名を「ナギ」といいます。このナギとカゼの出会いから物語は始まっていきます。

 場面が変わって、お城のシーンとなります。頭を垂れて傅くナギとその幼馴染で今回の戦の功労者でもあるイツヤ、そして2人の所属する隊の隊長の前で巫女が戦勝の舞を披露します。それが済むと従者サンタ、乳母のカズラに手を引かれた王女ヨヨ、そして女王が姿を見せます。
 まず女王からイツヤに褒美として馬が与えられることになります。そして、ナギの番になるにあたって、カゼを引っ立てるように申し付けます。カゼの目を見つめ、その目の無気味さにナギの勇気を称えますが、それを聞いて「お前の目は節穴か。お前が見たのはオレの眼に映るお前の目だ。自分の目を見て気味悪がるヤツがあるか!」と女王を罵ります。それを聞いてどよめく群集を前に、凛然とした態度を変えず、女王はサンタに剣を要求します。サンタがモタモタしているうちに巫女から剣を受け取ります。そして、ナギに剣を受け取らせカゼを殺すように命令します。しかし、実は戦場で敗れ、命を見逃されているナギはカゼの「お前に人は殺せない」という言葉が引っかかっていて、それを果たせません。そして、取り繕うように「これは余りに卑怯です。もしどうしてもというのであれば決闘で決着をつけたい」と言います。女王はこの言葉を受けて、殺すことを止め死よりもツライ目に合わせようと、イツヤに右目を抉るように命令します。イツヤは躊躇うことなくこれを実行します。うめくことも、痛がることもしないカゼの右目は眼窩を離れ、血に塗れて床に転がります。女王がサンタにコレを持って来いと命じますが、サンタはあからさまに嫌がります。そうしていると、カゼが「乞食ども、オレの国では魚の目玉は高級品だ。それを食って育ったオレの目玉も旨いぞ!食ってみろ!」と叫ぶと、乞食が物陰から大挙して現れ、すったもんだの挙句に乞食の子供がこれを食べてしまいます。
 カゼを牢に戻し、乞食を追い払って、ふたたび静けさを取り戻した広間で、女王はカゼを捕らえるという武勲を立てたナギにヨヨとの婚礼を褒美に与えると言います。これに乳母のカズラが反対します。カズラはヨヨを母親に似ない、「白馬の王子様」を夢見るような女のコに育てていて、それをどこの馬の骨とも分からない男の嫁にすることは反対だといいます。
 ナギに馬は持っているのか?と詰め寄るカズラ。当然、持っていないと応えるナギ。そして、ヨヨはこの婚礼を嫌がり、女王に反抗します。そして、「私はあの者がいい」とイツヤを指差します。そして「私は恋をしたことがないので、恋というのがどんなものだかわからないけれど、この知らない気持ちは恋だと思います。あの者でなければイヤです」とキッパリと言います。す。女王はこれを諌めます。そして、カズラは今度はイツヤに馬を持っているの?と詰問しますがイツヤは「先ほどいただきました」と応えます。色を問われると「まだ決めておりません」と返事をします。するとヨヨが城内一、白い馬を薦めます。
 そんなやりとりがあって、女王は隊長にナギとイツヤ、どちらが勇敢な者であるかを問い掛けます。答えは「どちらも勇敢であるが、経験が少ないため判断できない」というもので、女王は次の戦でより大きな手柄を立てた者をヨヨと結婚させる、と宣言します。あからさまに異を唱えたげなカズラの顔を立てて、ナギとイツヤと“白馬の王子”の3人のうち、より大きな手柄を立てた者と決定しました。
 謁見を終え、城壁で戯れに剣を交わして、王女との婚礼について、「あれが男を値踏みするほどの女か」「王女でなければ今夜にでも足を割って、恋の真実を教えてやるのに」と毒づいてみせるイツヤとそれに合わせるナギの2人、ナギは「自分には分不相応で、国王の父になるなどという大それた考えはない」と言い募ります。そして、2人で次の戦は逃げ回って武勲をたてにようにしなければと談笑しているところで、ナギは自分があの場でカゼを殺せなかった理由を、なぜ自分が生きていられたかを告白します。気にするな。と言ってイツヤが立ち去ったあと、ナギの独白が続きます。それは、自分が人を殺せない臆病者であることを自覚してのものでした。
 そんな中、城壁の脇の広場に乞食が群れています。そこへサンタが登場、乞食は口々に「サンタ様!」従者であるサンタを誉め、おだてます。その声に気を良くして、サンタはお城で出た残飯を乞食に恵みます。ところが乞食も本心から言っているわけではないので、ぼやく者もいて、いい気になっているサンタはそれを咎めだてして、逆にいじめられてしまいます。そこへ、酔っ払った様子のカズラが酒のビンを持って登場。今度は酒が欲しかったら自分を女王様と呼べと乞食に言います。サンタの時、同様に気を良くはしますが、中々酒を振るまったりはしません。結局、乞食の泣き落としに乗る形で「お飲みよ」といっしょに飲み始めてしまったところに巫女が登場します。乞食が彼女にも酒を薦め、宴会が始まってしまいます。カズラがヨヨの婚礼について、自分が過去に男にだまされたことを告白しつつ、だからこそシアワセになってもらいたいと独白し、小さくなっていたサンタはまたみんなにおだてられ、気を良くしたところで騙され、ションボリすることになります。そうやって乞食と使用人の世を儚んだような宴の中、子供の乞食が目玉のおいしかったことをつぶさに伝えると、巫女が「あっ!」と声を上げ、「女王様は今日のことが大変お気に召して、次の満月の晩にもう一つの目玉をくりぬいて乞食に食べさせるとおっしゃいました。思えば私はそのことを伝えに来たのでした」と言います。それを聞き、ワッと沸く乞食の群れを押しのけて、これまで姿を見せていなかったナギが巫女に詰め寄り、コトの真偽を問い詰めます。そして、それが本当だと知り、女王の残酷さに目を覆い、苦悩します。
 その晩、幾重にも後ろ手に縛られたカゼの牢に、覆面の男がひとり、忍び込みます。その男はナギです。カゼはナギに毒づきます。ナギが先ほど聞いたことを伝えると、カゼは「次の満月までオレにいい夢を見られるようにわざわざ教えてくれに来たのか、ありがとうよ。さぁ、用事は済んだろ、さっさと帰れ」と毒づきますが、ナギは帰りません。ナギはまず、カゼにどうして自分に人が殺せないのか?なぜそれがわかるのか?とカゼに問い掛けます。するとカゼは「目だ。お前のその目は血に染まっていない」と答えます。「そんなことがなぜ分かる?」と聞き返すと、「オレにもまだ人を殺したことがない頃があったからだ」と答え、「とにかく、お前のその目は人を殺すには優しすぎる」とたしなめます。「それがオレの運命なのか?」とナギ。「そういう運命の者もいる」と面倒くさそうにカゼは返事をします。そういったやり取りのあと、すぐにこの国を去ることを条件にカゼの戒めを絶ち切ります。すぐに牢を出ようとするカゼを引きとめて、ナギは海の話、“凪”とはどんなものなのかを尋ねます。カゼはなぜそんなものを知っているのかを問い返し、ナギが自分の名だと応えると、「凪は海の本当の姿ではない、だが、夕凪の海は実に美しい、そうかお前の親父は海を見たことがあるのか」と喜びを露にします。しかし、現実にはナギの父は旅人に聞いたことがあるだけで、見たことがないとさびしげに告げます。去り際、カゼはナギにサンゴでできた魔よけの首飾りを渡します。ナギはそれを握り締めて、自分が正しいことをしたという満足感に満たされます。
 ところが、乞食のひとりが後を着けてきて一部始終を見ていたのです。乞食らしからぬ態度でナギを強請り、「ここで見たことはすべて忘れる」という約束で金をせしめることに成功した、この乞食は人を殺せないナギが相手であれば、いくらでも強請れると、乞食であることをやめようという野望を抱きます。

 その晩のうちに、女王は何物かに胸を一突きされて殺害されます。
 女王の部屋を覆う悲しみの声、新たな女王になる決意を固めるヨヨ、そこにもたらされるカゼの脱獄の報、そして、両の目をカゼに抉り取られたイツヤ…。自分が良かれとしたことが思いもかけず、悪夢へとすり替わったことに打ちひしがれるナギはその場にいることができずに、夜の城下へと飛び出します。その頃、女王の部屋では乞食が女王の死体の回りに蠢き、不気味な言葉を投げかけます。

「天に輝く星の中には毎日一つは死んで消えて行くものがあるという。その一つに太陽が選ばれないと、どうして言えよう。明日、東の空から太陽が昇ってこないということがあることを覚悟しておくがいい。明日を夢見ることを諦めるがいい。昨日を振り返ることをやめるがいい。覚悟しておくがいい、明日が来ないということがあるということを!」

 ナギが自分の臆病さが招いた結果に悲嘆していると、先ほどの乞食が出てきて、またナギを強請ります。その乞食を悪党と罵ると、乞食は平然と、むしろ嬉々としてその呼称を受け入れます。そして、あなた様も同類だ、と。乞食はナギが悲しんでいることを、なぜ悲しむのかと言います。女王が死に、ライバルは両の目を失っている今、最後に女王の遺した言葉に従うなら、ヨヨを娶ることができるのはナギだけだと。そんなことを望んでもいないナギはここでお前を殺せば片付くとばかりに剣を抜きます。乞食は怯えながらもそれを隠し、ここを越えれば自分は乞食でなくなれると、ナギに言葉を浴びせいきます。その言葉に、自分の不甲斐なさに打ちひしがれ「自分が臆病であるばかりにしかたがないと従ってきた運命の結果はこの悪党と同じなのか」と放心するナギを見て、乞食は勝利を確信します。
 唐突に波の音がナギの耳を捉えたとき、ナギの様子に変化が生じます。まるで操り人形のようにフラフラと立ち上がり、剣を握って迫ってくるナギに異変を感じ、乞食はすぐさま命乞いを始めます。しかし、その声はただ空しく響き、ナギの耳には届きません。ナギは膝まづいて命乞いする乞食の上体を起こし、その首に掛かった、風の国の剣士の遺体から奪った首飾りを握って、それを目標にするかのように、ナギの剣は乞食の喉に吸い込まれました。声を出すこともできずに絶命する乞食の前で、ナギの中に変化が生じていました。「これまで運命だと思って、従ってきたもの、オレを縛るものの正体が分かった。そして、それを克服した今、一度は胸に抱きながらもムリだと思って諦めかけていたこと、国王の父親になることさえも諦める必要のないことのように感じる。凪は終わった!風は吹き、波は逆巻きはじめたのだ!」と…。

 数日後、場面はヨヨの私室へと移り、乞食の子供とやりとりをするヨヨがいます。ヨヨは乞食に頼んで“あの方”を呼んできて欲しいと頼みます。乞食はヨヨとのやりとりの中に、商売としての乞食、人を騙して、何かをせしめるといった行為でヨヨの同情を惹こうとしますが、純粋無垢なヨヨはただ言葉を掛けるだけ、かと思えば本当の思いやりを示します。ヨヨが乞食を送り出してほどなく、部屋のドアをノックする者がありました。ヨヨは従者の名を挙げますが、返事がありません。もしかして、“あの方”かと表情を輝かせますが、風に乗ってきても早過ぎると訝しみます。事実、部屋に入ってきたのはナギでした。「何の用ですか?」と尋ねるヨヨに「自分をお忘れですか?」と問い返すナギ。「覚えていますよ。あの者を捕らえた勇敢な方ですね。何のご用です」「お母様のことは誠に残念でした」「そのことでしたら、あの者が悪いのです。あなたが気に病む必要はありません」「そう言っていただけると気が楽になります」「ご用はもう済みましたか?でしたら帰ってください。これから人が尋ねてくるのです」「イツヤですか?」一瞬、間を置いて毅然と「そうです。分かったら帰ってください!人を呼びますよ」とヨヨが言うと、これまでのナギでは考えられなかった口調でヨヨに迫ります。イツヤの状況、そして前女王の言葉を出しての脅迫めいた求婚。「地位も財産も保証するからどうかなかったことにしてください」とヒザを着き頭を垂れて懇願する一国の女王を前に、これまでなら諦めただろうと自覚しながらも諦めることをやめたナギは「イヤです」と言い放ちます。“女王が決めたこと”という一点でヨヨを追い詰めた気になっているところにヨヨから「わかりました。女王が決めたことは女王がなかったことにするしかありませんね」と言われ、「ええ」と頷くとヨヨは「なかったことにします」と何事もなかったかのように言います。「あなたのお母様が決めたことですよ」と詰め寄るナギに「ええ、女王になって初めての仕事がお母様の決めたことをなかったことにするのは心苦しいですけど仕方ありません。あの話はなかったことにします。さあ、出て行きなさい!」と突っぱねます。
 これを聞いてナギは「あなたは、一国の女王にもなろうという方がそのような…!」と激昂して、「あなたは男をしらないんだ、だからそんなに夢のようなことを言っているんだ。私もイツヤも同じ男だということを教えてあげますよ」とヨヨをベッドに組み敷き、ショールを剥いだその時に、イツヤが訪ねてきました。「イツヤ!」と声を上げるヨヨを後ろ手に絡めとリ、「声を出したら殺す」と口を塞いで小声で脅すナギの声にイツヤが気づきます。ナギは警護でここにいると答え、自分ひとりしかいないとイツヤを偽ります。
 両目をマスクに覆われ、杖を頼りにゆるゆると室内に入ってきたイツヤはその場に腰を下ろし、ナギひとりであることを確認して独白を始めます。その内容は、まず「あの男を逃がしたのはお前か?」というものでしたが、ナギはこれを否定します。その言葉を聞いて、イツヤは非礼を詫び、そして今の境遇、カゼへの恨み、周囲の態度を語りますが、やがて目を失って得たものについて語り始めます。それはこれまで気づかなかったこと、風の音や川のせせらぎであり、ヨヨのことでした。かつては何とも思っていなかったヨヨの自分への接し方、その純粋さに心引かれていることを告白します。「もちろん分は弁えている。信じてもらえないかもしれないが、自分からヨヨ様に触れたことは一度もない。もっとも、触れようとしたところで、目が見えないのだからどうしようもない。だがもし目が見えたならオレは次の戦で必ず手柄を立てて、誰はばからずヨヨ様を自分のものにしただろう」と続けます。これをナギは「昔のオレならすぐさまお前に真実を話して涙を流しながら詫びて許しを乞うただろう。だが今のオレにはもう何の感銘も与えない。何もかもが遅すぎたのだ」とこれを聞き流します。ナギの腕の中、なんとか抜け出そうと身をよじって奮闘するヨヨ。その瞳は潤んでいました。ナギの様子に異変を感じたのか、一度はナギの様子を確認するイツヤ、そして「こうなったことをオレは少しも後悔していない。だがな、ナギ。ひとつ心残りがある。それはオレがヨヨ様の顔をよく見ておかなかったことだ。こんなにも大事におもっているのにオレはヨヨの顔を思い出せないんだ。それだけが心残りだ」とイツヤが語り終えた刹那、「ヨヨはここにいます!助けてイツヤ!」ナギの手を、戒めをすり抜けてイツヤの想いに応えるようにヨヨが声を上げます。それを聞いてイツヤは何が起こっているのかを理解して、人を呼びます。そのイツヤに剣を向けるナギ。それを見て「逃げて、イツヤ!」と叫んだヨヨの声は空しく響き、ナギの剣に喉を貫かれたイツヤはナギにすがるように倒れ、息絶えます。そのイツヤの死体に寄りそうヨヨを見て、今にも泣き出しそうな表情でナギは嘆きます「どうしてオレじゃだめなんだ?手の届かないものを手に入れようとしてはいけないのか?どうしてソイツじゃなきゃいけないなんてことがこの世にはあるんだ」と。そして、イツヤの死体を背に、毅然とした表情でナギを睨むヨヨの喉にも、ナギの剣が滑り込みます。イツヤに重なるように絶命するヨヨを見下ろすナギ。そこにイツヤの馬、城内一、白い馬の様子がおかしいと報告に来たサンタがこの惨劇を目にして悲鳴を上げます…。

 ここで場面は城の外へと移ります。おぼつかない足取りでさまようナギの周囲を乞食達が付け狙います。剣を振り、乞食に打ちかかる姿にはもはや力はありません。それでもナギは歩きつづけます。
 やがて、ナギの前に右目に眼帯をしたカゼが姿を現します。「ここから先はオレの国だ。ここを通すわけにはいかない、引き帰せ!」「引き返すところなどない!オレは海を見るんだ」「ここを通してお前に海を見せてやることはたやすいが、それではまた多くの血が流れることになる。出会ったあの日に決着を着けておくべきだった…俺たちは敵同士で出会ってしまった以上、あの時にどちらかが倒れるまでちゃんと憎しみ合っておくべきだったのだ…」「海を見るんだ。父が見ることが…叶える事が出来なかった海を…俺は見るんだ…」そして、数合切り結んだ結果、やはりナギはカゼに剣を弾き飛ばされます。右手に持った剣をナギの首筋に当てながら、左手を見つめるカゼ。その感触に異変を感じたのか、「お前、人を殺したのか?」と問い掛けます。ナギは誇らしげに「そうだ、オレは運命を越えた!」と叫びます。それを聞いたカゼは寂しそうに「お前はオレになぜ人が殺せないかを尋ねた時にもうひとつ尋ねておくべきだった。なぜオレがお前を殺さなかったかを。オレはお前を殺さなかったんじゃない、殺せなかったんだ。お前が怖かったんだよ。人を殺したヤツは多かれ少なかれ目の色が違う。殺さなければこちらが殺される、そういう目をしているものだ。だがお前は違った。まったく汚れていない、人間の目をしていた。そういう目で見つめられるのが怖かった。だからオレは逃げ出したんだ」と語ります。それを聞いてナギは「今は?」と問い直してしまいます。「今は違う」と告げられてしまいます。がっくりうなだれるナギに「お前、あの首飾りを持っているか?」と問い掛けると、ナギはサンゴの首飾りをカゼに見せます。「オレの国ではこれを持って死んだ者の魂は海に帰るという言い伝えがある」そう告げられて、ナギは首飾りを握り締め、ギュっと目を閉じます。その首筋をカゼの剣が走り、ナギは静かに絶命します。すぐにナギの亡骸に群れ集う乞食を一度は追い払い、ナギの手にしっかりと首飾りを握らせて、カゼはその場を後にします。ナギの遺体に群れた乞食たちが、あの不吉な詩を高らかに謳い上げ、舞台は幕を閉じました。
 

 …という芝居を昼夜2公演見ました。なんというか、腹の底にズンと残るボディブローのような話で、初回はただただ固唾を飲んで見るしかありませんでした。今回目当ては岡田純子だったわけですが、彼女の役所である乳母カズラは本当に脇役です。でも、朗々とした演技が素の岡田純子に近いので、終演後に話をしていてもハイテンションで楽しかったです(「また強い女性の役ですね」と言ったら、「ホントは違うんですよぉ」とちょっと甘えたカンジでムダな抵抗を見せていました(笑))。
 それ以外の方でも桜組の舞台で見覚えのある方が多かったので、なじみやすいというカンジはありました。またカゼ役を演じた高橋和久の存在感は素晴らしく思えました。あとは、ヨヨ役だった洲脇久美子が意外と悪くないという感想を持ちました。
 舞台全体としては、“緊張感”というイミで高いテンションのお芝居で、暗転の幕間くらいにしか気を抜けない。むしろ、そこで息をつかないと息切れしてしまうのではないかと思うほどでした。