<北方性>=「自然の厳しさ」 窓の結露に一例 『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』
 <北方性>=「自然の厳しさ」 窓の結露に一例 桜木 紫乃著『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』 角川書店 2021年

 28日、この日、二人目のお方が選んだのは、『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』であった。都合、1)『ブルーRed』、2)『凍原』に続く3冊目の選書にあたる。
 発表者はみちこさん。堂々と「末広のキャバレー『パラダイス』が舞台です」。
 そう切り出されて、「キャバレー・パラダイスは『銀の目』か、『香港』ではないでしょうか」。そう、開設があった。

 発表を聴かせていただきながら、紹介のワンセンテンス。
 「章介は窓にびっしりと張った結露の、薄い氷に息を吹きかけ爪で削って外を見た」。
 そこのところに注目してみた。記憶は、小学生の時代に遡る。

 道央から来た講演者が、自宅に九州からの客人が訪問してきたときの様子を語り始めた。
 「(九州からのお客様)家に入ろうとしないのです」「ジーっと屋外にたたずんで、ひたすらツララをみています」。
 「北海道のお住まいは、軒下に<実にすばらしい彫刻>を施している。

 ツララ。漢字で「氷柱」と書くらしい。
 ツララは採暖の暖気が天井を突き抜けて、屋根をあたため、外の積雪を融解してできる。
 ツララは「芸術」かも知れないが、<断熱機能>の低レベルを示す、<貧困>の表現。

 引用箇所の「窓にびっしりと張った結露」には、次のプロセスがあるようだ。
 「室温と室外の気温がほぼ等しく、わずかに採暖の成果で室温で暖められた空気が、一枚のガラス面に冷やされて、空気中の水滴がガラスに凍り付く」。

 近代文学の一隅に「北方性」と指摘される領域が、「確かにある」。
 鳥居省三氏の一言が、今も耳に残る。では、「北方性」の表現をどのように示すか。
 「薄い氷に息を吹きかけ爪で削って外を見た」の思い出をもつ人は、高齢となった。

 「爪で削って外を見た」も「やった経験」の持ち主が少なくなり、「結露」の描写。
 そこがただ、読み飛ばされていく部分かもしれない。
 (単行本)
 桜木 紫乃著『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』 角川書店 2021年/2月26日
 (初出)『オール読物』 5月号