2015 01/19 08:40
Category : 書評
女帝カリスマ性の裏づけ 工藤庸子訳・アンリ・トロワイヤ著『女帝エカテリーナ 上巻』.ドイツ生まれ.ロシア正教の洗礼で、エカチェリーナに.
ロシア社会に接するためロシア語、ロシア正教を学び、ヴォールテールやモンテスキューら啓蒙思想家の哲学を身につける.
夫を帝位から追い落とすが、その正当性は2点.
1)ロシア正教を異端から守る.
2)強い「カクカクたる」ロシア.
上巻は帝室入り、ビョートロ大帝との結婚と結婚生活、クーデター、政権揺籃期を書く.
このあと貴族への政策提示、改革が下巻のストーリー展開か.
貴族を相手に、女帝が政権を維持した要素.それは、啓蒙思想家としてのカリスマ性か.一部、貴族をして支持と理解の必然化をうかがわせる点が、示されている.
地方役人の適正配置が必要なときに、元老院議員は「いくつ地域政府があるか」下問に答えられなかった一場面.なにやら、徳川吉宗をおもいおこさせた、が.
女帝の啓蒙思想ばかりではなく、「あるときは懐柔しあるときは断固たる態度をとる」「寛大でもあるが警戒もおろそかにせぬ二重の方式」(269p)を、カリスマ性の裏付けと理解しておきたい.
本書を読むに、一定の既存知識が必要か.
記載構造が緻密で、文脈を追い続けることと理解度には、いささかの乖離を生じやすい.
その溝を、接続するには既成の理解がないと、なかなか取り付けない.(中公文庫 1985年)