長幸男著『昭和恐慌』
 長幸男著『昭和恐慌』。冒頭は、小沼正が暴徒となって井上準之助を暗殺するところから、始まる。

 なぜ、そうなのかは昭和恐慌の広がりのなかに、井上準之助が「金輸出解禁」の施策とともに、実はキーマンであったことを示している。

 「金解禁」。この用語は歴史の教科書に登場するが、実は理解の難しい教科書内での位置づけであったとの、思いがある。大正6年に我が国政府が選んだ「金輸出禁止」のことがあまり説明されずに、いきなり浜口内閣が昭和5年1月に金解禁したとあるもので、「それって、どんなこと?」の思いを抱いてきたが。

 本書でそこのところの説明があるのだが、前半はさまざまな経済論説が引用されるため、なかなか難読である。

 ようやく半ばをすぎて、政友会の支持基盤=本州の地主勢力、英米にはるかに遅れて金輸出解禁が実行できない本邦政府、多額の借款処理期限が迫っているのに貨幣の新旧移管をするには浜口政権が少数与党であるため平価切り替えの法改正ができない事情。

 さらには、農業恐慌がしだいに緒ついてほどない工業社会に影響を及ぼしてゆく図式。少しずつ、目の前のウロコが取り除かれてゆく、思い。

 昭和49年版。早くから読みたいと買い求めながら、なかなか開くことができなかった。時代の趨勢が難解な書を、読ませてくれているのかも知れない。