武田好著『マキャベリ『君主論』』
武田好著『マキャベリ『君主論』』。マキャベリ著『君主論』は政治権力を理解するうえではお馴染みの一冊。
その代表的著作の読み方を、イタリア語が専門である立場から該書執筆に先立つ書記官時代にまとめた一連の「使節報告書」を読み解き、それまで接した君主像と国家観という体験、発展させた君主像と国家論を提示したものとして、読み方を示す。

マキャベリが、応仁の乱勃発の2年後の誕生、場所はイタリアでフィレンツという地域。分立国家からヨーロッパ型の絶対王政に移行する時期に、本書は分立国家への再就職のための論文として、書かれたものとする(p6)。
マキャベリは政権のなかで書記官になり、外交官の役割を果たす(23p)。「相手の心理を読み、そこから全体像を推し量る」のがマキャベリの「仕事術の得意とするところ」(98p)から、情報集とその分析にたけた有能な家産官僚の側面を提示する。

然らば論点はなにか。君主たるもの「政治と倫理を完全に切り離し」「理想よりも現実を重視」する考え方にあると、する(98p)。時代はヨーロッパで宗教改革の前後。国家は教会勢力との秩序をめぐり、その立ち位置を模索する局面にある点も、該書理解のうえで重要であろう。

著者は、従来の『君主論』に対して読者が寄せる≪思いこみ≫なるものに、線を引こうとしている。他方で、なぜ≪思いこみ≫が広く支持されているのか。その手がかりを『君主論』そのものの読み込みから発するのではなく、その前段にある「使節報告書」の解読を通じてあらたな『君主論』像を示そうとし、また、十分に成功させることができたのではないかと、思う。(NHK出版 100分 de 名著 2011年)