時代と共に移る評価 吉田常吉著『井伊直弼』
初版は1961年。20年後に出た第6版を中古本で購入したようである。
 吉川弘文館の人物叢書。454ページの組み立ては、当時の人物叢書としては相当な「厚み」。そのまま、積んであった。



 「釧路港修築碑」という碑文が市内にはあって、翁の50回忌に国費決定をみたところから、「大公の遺徳」とさえ記してある。
 著者は申す。「毀誉褒貶の激しい」。時代の趨勢に解釈が揺れ動いた。

 國學院大學から東京大学史料編纂所に転じ、『大日本史料 類従之部 井伊家史料』を整理する立場にあった。
 外部の評論とは別に、伝承史料に依拠する井伊家内側からの論。

 初版が1961年に出版は、著者にはひとつの感慨、社会は時代の転換点と読むことができるのかも。
 61年は著者、初版は51歳の時に刊行。

 皇国史観のもとでは理解しがたかった「違勅条約調印」、当然視された「桜田門外での死」も、新たな視覚が用意されたたであろう、時期。 

 著者の吉田常吉氏は、このシリーズの『松浦武四郎』でも、お目にかかる。松浦は水戸藩の支援で、蝦夷地探検。
 水戸ー井伊。そこのところの筆致も、「読みたくなる」観点。