麦秋。くちなしを盗んだ。
予約しておいた眼科の検査に。しかし午後四時の予約時間というのもなんかなあ。検査が終わり腹が空いたので蒲田駅ビルへ。麦とろ屋に入り丼入りの麦飯と黒糖焼酎。外に出たら酔っていて足もとがふらついた。酒に弱いのを思い出し、なぜ黒糖を頼んだのかふしぎな気分に。しばらく歩いて気がついた。ときどきむしょうに奄美が恋しくなる。あの濃密で解放された奄美の空気に触れたくなる。昨夜で山越えしたことが大きいのか。忘れてはならないことのほとんどを意識するスキもなく時間が消費されていったから。昨日、編集の合間にブックセンターとおあい書店で買った1袋分の小説のどれから読みはじめようか迷うゆとりももまた格別。花屋に寄ってくちなしを探したが見当たらず。店員の女に聞いたら、くちなしは入れてません、とにべもない。バラ売るだけが花屋じゃねえだろう、とは言わず、気分がいいのでそれは残念と言って公園に。タバコを三本。んまっ。ついでに公園のくちなしを三本盗んだ。蒲田松竹撮影所のあとに高砂香料という香りの会社があっただけあり、跡地の公園は香る花や樹が多い。水で洗って瓶に挿した。一重のくちなし。おれの記憶では“日本梔子”。ひかえめなそれでいてどこかなやましい、そういう匂いが机の周囲に漂った。六月十八日麦秋の夕。明日からは梅雨らしい日々となるらしい。

22:30
盗んだ梔子、よく匂っている。若い頃は、こんな匂いのするおんなに憧れていたのだと、苦笑。福島さんのあの歌は梔子だとずっと思い込んでいたが、ほんとうのところはどうなのか、こんど聞いてみよう。

   目を病みてひどく儚き日の暮れをきみは真白き花のごとしよ