2008 03/16 20:14
Category : 日記
格子の向こうの独房から35番シャバじゃどんな歌が流行ってる、と声をかけられた。一週間前にシングル盤を買ったばかりだったカルメ・マキのことを話したら聴かせてくれと言われた。完黙で三ヶ月になるというその人にほだされ思わず歌ってしまったのが“時には母のない子のように”。コンクリート打ちっ放しの今ならモダンづくりのその空間は広い浴室のようで音程外れっぱなしの俺のアカペラに声をかけてきた駒大のリーダーだけでなく、強盗、強姦、ヤクザをはじめ苦虫かみつぶしていた看守まで、いっせいにため息ついてしばらく沈黙。ややあって完黙で三ヶ月が、じゃお返しに俺も一曲と“星影のワルツ”を歌った。きれいな澄んだ声の持ち主で、17歳のおれは聴きながら涙がぼろぼろこぼれた。三週間後、のびた無精ヒゲを見ながら看守が35番は若いのに立派なヒゲでうらやましいな、と声をかけた。完黙で三ヶ月男が、そのままのばしてるといい、と笑った。それから、ヒゲを剃っていない。出てきて二日後、お茶の水の檸檬の2階で辻と賢明にチョコレートパフェとナポリタンをおごってもらった。明日のジョーが、まだ力石徹と出会ってない頃のこと。