冬木立と寒月
ダッフルの左ポケットに汗でびしょびしょになったTシャツをつっこんだままロケバスのシートに横になり真上に浮かんだ十二夜の寒月を眺めながら“岩槻”の表示を見ないようにし東北道を戻った。12時過ぎ、部屋でとり出したシャツは真冬なのにまだ濡れていてしぼれば汗が滴りそうだった。20日、3時過ぎに撮影が終わったとき長岡と渡辺がプライベートで夕日でも撮らないかと言い出した。候補は利根川か渡良瀬遊水池の二ヶ所。倉持さんに選んでもらい渡良瀬に。二年ぶりの渡良瀬の撮影ポイントに着いたのは日没の20分ほど前。それからの30分余りは息をのむような冬のJapanesqueが展開。体感温度0℃以下の北関東ならではの身を切るような底冷えに震えながら魂が湧きたつような色彩とカタチの変化を撮り続けた。嵐山で紅葉を撮ったその時間の連続で間に辻の10日間をはさみまったく同じメンバーが裸になった真冬の情景を撮っている。どこか現実離れした時間が過ぎた。あいつが見たらきっとうまい酒をになるだろう、ホテルのロビーで古いブラウン管テレビでプレビューしながら笑みが浮かんだ。その夜は打合せ中のスタッフを残し珍しく10時には寝入った。朝7時にモーニングコールがかかるまで熟睡した。起きたら目やにが出て両目が開かなかった。あいつが倒れた夜もおれは泥のように熟睡し翌朝目をこすりながらはい出した。目やになど無頼な時間をおくっていた20代いらいのこと。2007年友の逝った師走。髪でも切ってくるか。