2007 05/14 20:36
Category : 日記
また雨が降りはじめると、あまり雨のかからない大きな岩の下に少し離れて並んで座り、海を眺めた。どうして波の音や雨の音や、木々のあいだを吹き抜ける風の音に心惹かれるのか、わかったような気がした。意味がないからだ。そういう音はおれたちと何も関係がないし、人間がどうこうできるものでもない。人生のごく初期の、まわりから聞こえる音の意味がまだわからず、ただ耳でとらえるだけだった時代を思い出させるのだ。それは魔法の行為や無限の思索で世界を変えようとしつづけなくてはならない今の自分に、喜ばしい安堵をもたらしてくれる。人が意味のない音を好むのは、それが行動の不安や、パターンを作ったり理解や変化を追い求めたりすることの解毒剤になっているからだ。何かをとらえてそれを何かの目的に使おうとした瞬間、人というものは形作られ、同時に呪われる。道具を作ることで人間は世界を手に入れたが、代償として心を失ったのだ。
「孤影」
マイケル・マーシャル著/嶋田洋一訳
ヴィレッジブックス刊
S・キング絶賛とうたうだけあり、一筋縄ではいかない濃密で陰影のある作風。「死影」の続編で、さらに未訳の第3部がある。翻訳のよさもあり、堪能した。
「孤影」
マイケル・マーシャル著/嶋田洋一訳
ヴィレッジブックス刊
S・キング絶賛とうたうだけあり、一筋縄ではいかない濃密で陰影のある作風。「死影」の続編で、さらに未訳の第3部がある。翻訳のよさもあり、堪能した。