天城越えと命の別名
をリピートしながら、なにひとつ響くことのない数カ月かけて絵空事からスネークアウトしようと三日。塩味のするいつまでも冷めない温泉。遅い桜と菜の花、紺碧の海。断崖。旧天城街道の隧道。若葉。真夏のような日ざし。豪雨。驟雨。明かりひとつない山道。夜の駅。窓の外の暗闇。

知らない言葉を覚えるたびに
僕らは大人に近くなる
けれど最後まで覚えられない
言葉もきっとある

何かの足しにもなれずに生きて
何にもなれずに消えてゆく
僕がいることを喜ぶ人が
どこかにいてほしい

石よ樹よ水よ ささやかな者たちよ
僕と生きてくれ

くり返す哀しみを照らす 灯をかざせ
君にも僕にも すべての人にも
命に付く名前を「心」と呼ぶ
名もなき君にも 名もなき僕にも


たやすく涙を流せるならば
たやすく痛みもわかるだろう
けれども人には
笑顔のままで泣いてる時もある

石よ樹よ水よ 僕よりも
誰も傷つけぬ者たちよ

くり返すあやまちを照らす 灯をかざせ
君にも僕にも すべての人にも
命に付く名前を「心」と呼ぶ
名もなき君にも 名もなき僕にも

 隠しきれない 移り香が
 いつしかあなたに 浸みついた
 誰かに盗(ト)られる くらいなら
 あなたを殺していいですか

 寝乱れて 隠れ宿
 九十九折り 浄蓮の滝
 舞い上がり 揺れ堕ちる肩のむこうに
 あなた・・・山が燃える

 何があっても もういいの
 くらくら燃える 火をくぐり
 あなたと越えたい 天城越え

 口を開けば 別れると
 刺さったまんまの 割れ硝子
 ふたりで居たって 寒いけど
 嘘でも抱かれりゃ あたたかい

 わさび沢 隠れ径
 小夜時雨(サヨシグレ) 寒天橋
 恨んでも 恨んでも 躯うらはら
 あなた・・・山が燃える

 戻れなくても もういいの
 くらくら燃える 地を這って
 あなたと越えたい 天城越え

 走り水 迷い恋
 風の群れ 天城隧道
 恨んでも 恨んでも 躯うらはら
 あなた・・・山が燃える

 戻れなくても もういいの
 くらくら燃える 地を這って
 あなたと越えたい 天城越え