♪帰れない者たちへ
中島の歌を、あの月光にあててみたのがまずかったか。


    帰れない者たちが  月を見る十三夜   
   「帰る気もないのね」と 手紙読む十三夜    
    帰れない者たちが  月に泣く十三夜…
   
    帰れない歳月を 夢だけがさかのぼる
    足跡も探せずに 影と泣く十三夜…



帰れなくなったのは十三夜ではなく十四夜ではあったけど。たしかに真情は二行目の♪「帰る気もないのね」と手紙読む十三夜 正確に言えば「帰る気になれない」。そういう濃さと深さを持つ闇が奈良のあの場所には確かに漂っていたのだと思う。三週間に渡った、極限とも言えるリアリズムが引き起こした反動だと片づけてしまえればラクなのだけど、引きはがしていけば、底に沈んだ異なる断片が浮かんでも来る。それがわずらわしくも、うとましい。むじなの森。夕日と深く濃い闇と、そして闇を切り裂く冴え冴えとした月光。デジャブ。などであるはずもない。あり得ない。あっては、ならない。