メモ
●けやきのフラッシュ
at 2001 11/03

駅まで歩いて、雨足の強さに気分が萎えた。Uターンし、オフィスに。いつも夜にうろつく公園の木々の葉がずいぶんと落ちてしまっていることに気づく。絵画館前の並木はどうなっているか、と気になった。
氷雨、本降り。いつもワタナベのクルマで動くので傘をさして街を歩くのもひさしぶりだ。タバコを二本、ケヤキの下で灰にした。もっとずっと小さい子供のような背丈のケヤキのそばでこんな本降りの夕にタバコを吸っていたシーンがフラッシュした。
須賀川。むじなの森。ジ・アース館の前の湖のほとり。小さなケヤキが植えられていた。あのケヤキのそばに立ちすくんで、あるいは力つきて腰をおろし、何百本のタバコを灰にしたことか。雷。嵐。大雨。台風。夜霧。夕日。十六夜。虹。ヒグラシ。カエル。鈴虫。白い雲。青い空。風。夜のゴンドラ。森の滴と名づけられた小さな三千本の灯。提灯の灯影。小松明の群れ。焔。水。水。水。水。おれのみずの日々。切迫。焦眉。灼熱。焦燥。奔流。激情。鎮静することのない、静まることのないこわばった時間。その熱い塊。混迷のピークで出あった、魂を抜き取られるような舘岩村・湯の花の月の光。足元でふみつけられそうだった小指の先ほどの紫露草が放った夏の光。
けっきょく、街には出ずに、オフィスに。窓を開け、氷雨を眺めながらハワイアンを聴いている。考えればおかしな組み合わせだが、意外と似合っている、ように思う。
《Somewhere Over The Rainbow/What A Wonderful World》と名づけられた不思議な趣のある曲をリピートしながら。今日は、なんだか誰とも会いたくない。誰の声も聴きたくない。
ワタナベは明日あたり廃虚となったむじなの森に行ってみるらしい。こんな夕暮れもいいじゃねえか。