メモ
夢の跡のポチとお伽の宿とうなぎと神社と。さらば須賀川
at 2001 11/12 04:05 編集

昨年11月10日のメーリングに
「演出部は昼過ぎに大松明が出立する二階堂神社に明日の晴天を祈願」と書いた。それから丸一年後の11月10日が今年の松明あかし。11日、会津若松の《杏》から韋駄天走りで、全山紅葉の磐梯山を目の端にとらえつつ須賀川に戻った。夕日の博覧会跡を一望し、ジ・アースの跡地に立つ。あとかたもなし。金色の飛行機雲と沈みかけた夕日。夏の間、毎日のように見た場所よりもずいぶんと左に沈んでいく。晩秋。集いのみずうみは無残な戦災の地のようだった。ゴンドラを支えた鉄塔が寂しいシルエットとなっている、むじなの森。いちばんよく過ごしたけやきのあったあたりで会津若松の絵ロウソクに火をともす。「はかない夢と情熱が確かに存在した場所」の一節が引用された手紙二枚を、その炎にかざして灰にした。その灰をみずうみのほとりの土くれに戻した。森のひとの灰とともに、ジ・アース館の記録である外伝2《儚》について記載した文章がむじなの森の土に還った。

見届けたのは演出部と山田さんをはじめ施工スタッフにかわいがられていたという白い雑種の犬と夕日。この犬の名は《ポチ》と名付けた。ポチと残照と黒い森と灰を残し、森を去る。気温2℃。かじかんだ体に暖をとるために《お伽話の宿/米屋》に向かう。温泉に入らせてもらい、コーヒーをご馳走してもらう。
須賀川市内に移り、うなぎ屋に。土瓶蒸しで腹をあたため、刺し身と牡蛎フライを腹におさめてから、うな重にとりかかる。
これはじつにうまい蒲焼きだった。座敷に寝転がって座布団枕に閉店まで粘り、外へ。すぐ近くの二階堂神社に寄る。参詣。二本の大木が相変わらずみごとだった。深い感謝と、ぶじに終了した礼を捧げた。巨木に身を寄せ、愛をこめて、キス。須賀川に、別れを告げる。帰京。須賀川から東京まで2時間。これまでの最短記録。10日夕から11日深夜までの30時間。
これからを生きていくエネルギーを細胞のすみずみにしみ込ませる時間となった。この晩秋の色彩ゆたかな二日間を、おれはきっと生涯忘れないだろう。
雨。闇。炎。夜露。たぬき。洪水。なでしこ。紅葉。磐越道。末廣の杏。夕日。ポチ。跡地。絵ロウソク。灰。漁火。暗夜。星。まつたけ。夜の巨木。疾走。