六本木みぞれ
22階の打合せが終わったのが8時前。それから待っていた川田と相馬の三人でハイアットのラウンジへ。渡辺は六本木長岡のところにHDダウンコンバート素材を受け取りに。3時間ほどDnextを中心に話した。前半は混乱もあったが後半はかなり明快に道筋が見えた気もする。昼を食べていなかったので腹が空いてしかたなかった、とりあえずハイアットでケーキを腹に。コーヒーのお代わりを五杯くらいしたか。閉店までいて別れた。枠組み、方針などほぼいい感じで合意できたと思う。今夜が彼らにとって新しいスタートになってくれることを願うばかりである。そうするいがいに生き残る道が無いことを、きっと理解してくれたと思う。駐車場から渡辺がクルマを持ってくる間、22階あたりを見上げ相馬とタバコに火をつけたら、かすかに雪が落ちてくるのがわかった。晩秋の某日某夜、同じホテルの同じラウンジのかたすみで彼らの行く末が決められたことを思うと、いささか感傷的になったが、同じ空間で同じ夜景を見ながら、別な明日の姿を思い描くことができたのだ。それも人生。いやそれこそが人生。皮肉ではなく、誰かがきっと見ているよ、と肩を叩いてやりたかった。そんな夜に予報通りの雪。ま、悪くない。

腹がほんとうに背中とくっつきそうだ、と助手席で渡辺に言ったら、ぼくもです、と。六本木の“れん”に向かうことにする。れんには先客が一組。漏れ聞こえる内容から地上げ紳士の生き残りとそのおんな二人?できるだけ聴き取れないように気をつけていたけど、漏れてくる内容から世の中はまだほんとうに“バブル”が再燃するのだと思いこんでいる連中がいるのだとわかり、笑い声をあげないようにするのに苦労した。メンチカツと半ライス。物足りなかったが、時間を考えコーヒーを頼む。22階でテーブルに載った仕事の内容は、まったく隙間のないスケジュール。できてその半分だろうと思ったが、笑顔でノープロブレムと答えておいた。利根川越えが頭の中で渦巻いていたが、ここで顔色変えたら、また何をふっかけられるかわからないので、とりあえず当面のことだけを笑顔でしのぐことに即断。笑うセールスマンのように、笑顔をつくった。はず。ま、なんとかなるだろう。胸の底にあるのは、利根川からも新宿からも遠く離れた、DJシリーズのことだけである。こいつをカタチにできるなら、女衒だろうとぽん引き野郎だろうと、どんな難題でもへらへら笑いながら股を開いてやる。カタチにし、先が見えたら、その瞬間におさらばである。足抜けである。そのときにきってやろうという啖呵は、3年前からきめてある。
“れん”を出たら小雪がみぞれに変わっていた。
予報より、温度がさがらなかったようだ。

部屋に戻ってpowerbookを立ち上げメールをチェック。
あかりやさんからひさしぶりにメールが届いていた。
“十九の春”のちよっと変わったバージョン。
しかし、彼はいったいこういうものをどこから仕入れてくるのだろう。
ほんとにふしぎな人だ。

ひさしぶりに金子由香利の“再会”を聴きながらこのメモを書いている。だからどうしたというわけでもないが。気持ちが鎮まっていくのを確かめたかったので。こんなものを最後まで聴けるときは、俺的には、おだやかなので。