はるはあけぼの
まだ六本木地下。あと二時間はかかるか。今年は絶対に徹夜をやめようと思ったが、はや小正月前に禁を破ることになった。予想していたよりもシンプルな出来になりつつあるのが、ま、救いだ。ときどき携帯をチェックがてら地上に出ると、春の宵のように空気が甘い。いつ降ったのか道路がしっとりと濡れていて、いまにも桜がほころびそうな空気が満ちていた。バカなプロダクションの珍事の間は眠気が覚めたが、夜食をとったら眠くてならない。指でまぶたをこじあけディレクションしようとするが、先を急ぐスタッフも代理店もクライアントも、おれを置いてきぼりで、よほどのことがないと声をかけてくれない。そんなわけで眠さがさらに濃くなっている。

ずいぶんひさしぶりにP3のHと話した。
「十九の春」のことを教えてくれた。このwebメモを見たと。Hとは日本郵船のたしかバンニングシステムが始まりだった。「こころ花にあらずんば」「天然の日本シリーズ」と、今でも原点となるような仕事をともにした。「天然の日本シリーズ」は、現在目論んでいる「digitalJapanesqueシリーズ」の原型である。おれはこのなかの「光」と「風」の日本をまだ越えられずにいる。HD素材で欠落していた冬が埋められたのをきっかけに、digitalJapanesqueを早急に具体化するとスタッフたちに話したその直後にプロデューサーだったHから連絡があるというのも深い縁を感じる。機が熟したと告げられたな、と思った。Hを古河に誘い330inchHDプロジェクターで映写する南会津の雪景色のシーンを見せてやりたいと思う。東山魁偉の冬が障壁画サイズで吹雪いているあのシーンを。

まだ2時間は続きそうな編集だが、さすがにここまでくると気持ちもおだやかになる。諦念。ま、あとひと頑張りだ。なつかしい友の声も聴けたし、名分のたつ気晴らしもあった。ま、いいじやねえか。そう閉じられる。