桃★★★★★マ、ン、ゾ、ク。
姫野カオルコ著/角川書店

「六人は過去の同じできごとについて語っているのに、同じできごとではない雰囲気になる。六人それぞれ、通過した時間が違うのです。その人が存在していること。その人がなにかを感じること、思うこと、変化すること。その人はその人の時間を歩いてゆく。町でゴシップが流れた、それから後あるいは前、その町に住んでいた六人はどんな時間を歩いていたか。それを描出すると、時間というものが人によっていかに異なるか、いかに多様かが浮き上がってきます。どこにでもいるような人間、などといった言い方がありますが、しかし、人間はひとりひとりその人にしかない個性で時間のなかを生きている…」あとがきより引用

長編“ツ、イ、ラ、ク”と合わせ鏡となった六編の小説。姫野自身は、独立して成立しているのだとことわっていて、その通りではあるのだが、合わせて読むと、とても深く濃密。“ツ、イ、ラ、ク”以降の姫野は、突出した作家になったと、しみじみ実感。マ、ン、ゾ、クである。秘めやかであることこそが、輝かしい。お見事!