桜まつ心を慕情というのだった
朝、鳥のさえずりを聴きながら眠りに落ちた。
そして雨の音で眼がさめた。
嵐でもなくただ雨音だけを感じた。
そうか、これが、驟雨か、と
覚めきらぬ頭で合点する。

《げに春は驟雨とともにはじまるを咲かぬ桜を慕情というは》
                      福島泰樹

例の件、はしごを外されて1ヶ月半。
今夜、正式にお役御免となるらしい。
電話でいいよ、と言ったのだが
それでは失礼ですから、と。
失礼の上塗りをするつもりか、
と出かかったが飲み込む。

あの真っ暗闇の森の底で
両手に余る数の星月夜を
ともにしたのもまた事実だ。
八方塞がりの日々のなかで
これはすごい、と
肩たたきあったことも幻ではない。
二ヶ月にわたって失語症になった男が
笑顔浮かべて話したいというのだ。

まあ、いいじゃねえか。
春だもの。


東京に、開花宣言。