覚え:役割と位置づけ2002.9
海に囲まれ海によって遥かな世界と結ばれた日本は、太古から今日に至るまで、さらにその先の日々のすべてがいわば海と共にある。人もモノも希望も絶望も文化も文明もすべては海を経てこの国を満たしあふれた。また、同時に海を経て彼の国々を満たしてきた。私たちは、このあたりまえの事実を空気のように意識せずに生きている。創業以来この国の近代化と共に歩み根底から支え続けてきた日本郵船もまた、海そのもののように人びとの意識の底に、痕跡と航跡を秘めつづけてきたように見受けられる。

私たちの20世紀は、産業革命の洗礼とともにその幕を開け、急速に成長を遂げた工業化を産湯に使い発展し続けてきた。そのすべては海を通して成し遂げられた。言葉を変えれば海運によって実現されてきた。つまり、日本郵船によって、である。
日本郵船の歴史とはこの国の近代を開く歴史であり、120年におよぶ海運の歳月はそのまま私たち自身の近代化の日々でもある。なぜなら、私たちは意志の有無に関わらず、海の民の末裔だから。
21世紀を迎え、この国も世界もさらに大きな変貌の海に漕ぎ出そうとしている。私たちが考える新しい《日本郵船歴史資料館》は、過去の歴史と来るべき明日の姿とが一本の頑丈な舫い綱として織り込まれた、まだ誰も体験したことのない新しい時代の《歴史資料館》となるべきである。 

日本郵船は、そして私たちは《どこから来たのか?》《なにものなのか? 》そして《どこへ向かうのか?》。
《日本郵船歴史資料館》はこの根源的な三つの問いを、すべての来館者に向けて投げかける。来館者は、整理された過去に出会うのではなく、変化し進化しつづけとどまることのない、ある一つの生命活動の昨日と今日と明日に向かい合うことになる。海をめぐって繰り広げられ、さらに空と陸とを従えて深められていく、生きた時間と向かい合うことになるのだ。

これまでの日本をひらき、いまの日本をひらき、この先の日本をひらく《日本郵船歴史資料館》。これがリニューアルされる本施設の担うべき役割である。