2002 08/09 04:51
Category : 日記
◎ラジオシリーズ企画案《映画編》1994
■予定時間 10分間
■登場人物
中島みゆき
女ともだち
その姪/アリス/17歳、高校2年生
■場所
湖畔のリゾートホテル
●夏、夕暮。湖畔のリゾートホテルの屋外に設置されたホットバス。
八月も半ばを過ぎた晩夏。
高原の避暑地。小さな湖のほとりに建てられたリゾートホテル。
カナカナの声に、数組み残った避暑客の子供たちの歓声がかすかに聞こえている。
その風に、サラサラと紙の上を滑るペンの音。
文面を考えている中島の呟きが重なる。
中島 『…ひとりで、湖のほとりに来ています…』
ホットバスの水音が短く入り、
缶ビールをあける音が勢いよく続く。
女ともだちの声がややとがった感じで、
女ともだち 『なにがひとりよ』
アリス 『(小声で)みゆきさんて、のりやすいんだネ、おばさん』
女ともだち 『ちょっと、そのおばさんて言うのやめなさいって、
何回いったらわかるのよ。名前でね、名前で 』
アリス 『誰も聞いてないのにミエはって(と、小声)。
ハイ、さやかさん(それでいいのよ、と女ともだち)。
(小声に戻って)さやかって歳かなぁ 』
いいながら、ゴクゴクとビールを飲みほしていく、アリスの若い喉ごしの音と、
女ともだちのため息が同時に。
中島 『こころのあり方の問題よ。
アリス!わたしにも一本』
と、平然と中島。
缶を受けとめ、あける音に三人のノド越しの音が重なる。
三人 『うまい!』
と、笑い転げる。
その笑いを遠ざかっていたカナカナの声と子供たちのかんだかい声が消し去る。
短い間、カナカナの合唱、風のざわめき、鳥の声、他の避暑客のおしゃべり、
ホットバスのお湯のはねる音などに、とぎれとぎれに三人の会話が続く。
女ともだち 『静かだねえ』
中島 『あなたが話さないとね』
アリス 『(小声で)言えてる』
女ともだち 『今夜は湖のボートハウスの近くでバーベキューで
すってよ。お腹すいたねぇ』
中島とアリス『(笑っている)』
●宵。湖畔のボートハウス近くのバーベキューパーティ。
肉や野菜が焼かれている音がカットイン。
はぜる薪、勢いよく燃え上がる炎の音が重なる。
数組の避暑客たちの楽しそうなざわめきも聞こえている。
テーブルに並べられていく食器、
栓を抜かれるスパークリングワインの音などに女ともだちの声でハミングが。
《男と女》のテーマ音楽である。
中島 『なつかしいね』
女ともだち 『焚火見てたら、高校のキャンプファイアみたいでさ』
アリス 『(小声で)キャンプファイヤーだって、生きた化石だね』
中島 『中学の終わりの頃だよ。14歳』
女ともだち 『そうだった? 14だったの? わたしたちって』
アリス 『(小声で)おばさんが14歳!?
うそ、今のワタシより3つ下のおばさん!(一人笑い) 』
中島 『記憶のいいあなたにしちゃ…そっか、あのことか 』
女ともだち 『いやね、そんなんじやないの』
アリス 『(小声)彼のこと、だったりして(と、一人笑い)
ヤダァー、オッカシイヨー 』
女ともだち 『何よこの子ったら、ひとりではしゃいで。
あぁ、連れてこなきゃ良かった。みゆきが甘いからさ』
中島 『 あら、何か言った?』
そんな三人のおしゃべりに、
フランシス・レイの《男と女》のテーマ音楽のスキャットが重ねられていく。
三人の会話、一瞬やみ、薪のはぜる音だけになる。
しばし、その状態が続き、やがて、
周囲の鳥の声や、風の音、湖の気配、数組の避暑客たちの話し声などが甦る。
グラスがぶつかる音短く入り、湖畔のディナーが始められる。
三人のおしゃべりが続く。音楽は、そっとフェイドアウト。
会話、周囲の気配が濃密になっていく。
中島 『学校さぼって行ったよね』
女ともだち 『そ、駅のコインロッカーで着替えてね』
アリス 『コインロッカーは、今でも使ってるよ』
中島 『三回観たんだよね、一日で。門限遅れてしかられたもん 』
アリス 『門限だって、札幌の雅子さまみたい』
女ともだち 『まだ、門限なんてあったのよね、わたしたちにも』
アリス 『お母さん、おばさんは昔、不良だったっていつも言ってる。
だから、まだ一人なんだって…』
中島 『悪かったわね、一人で』
アリス 『あ、いえ、みゆきさんじゃなくって』
女ともだち 『あの人まだそんなこと言ってるの。ほんとに。
アリス、あなたねぇ、何度言ったらわかるのよ。
名前って言ってるでしょ。怒るよ』
アリス 『(消えいるように)はい、さやかさん』
中島 『四捨五入で三十年だものねえ 』
女ともだち 『ちょっと、やめてよ。思い出してるんだから 』
中島 『アヌク・エーメのベッドシーンのアップショット、
きれいだったなあ。あそこで流れていた音楽覚えてる?』
女ともだち 『二人で訳したじゃない。単語間違えてさ、
あのシーンとあわなくて悩んだのよね、サントラ盤買うまでさ』
アリス 『さやかさん、この間ヨーロッパ行ったとき、飛行機の
中で紅茶頼んだらオレンジジュースくれたって…』
女ともだち 『あんたねえ(と、姪への呼びかけが変化)…
名前さえ呼べばいいってもんじゃ…』
中島 『(唐突に)二人は過去をひきずり 心はやみに閉ざされる。
でも疑いは消えた 愛は私たちよりも強い(と歌うように)』
女ともだち 『やだ、まだ覚えてたのォ』
中島 『プロだものわたし』
アリス 『スッゴォイ。どうして二人が親友なわけえ?』
中島 『そう思うでしょう』
女ともだち 『アンタネエ(と、それ以上言葉が出ない)』
三人の笑いが夜を満たしていく。
ひときわ高い声で鳴く鳥の声が短く入り、
炎が燃える音が高まっていく。
その炎の音をかき消すように、中島が暗唱した歌が流れる《男と女》の
ジャン・ルイ・トランティニアンとアヌク・エーメの
ベッドシーンのサントラが流れていく。
三人のため息と夜の鳥の鳴声がときおりせつなく混じる。
ときおり、離れたテーブルではしゃぐ子供たちの笑い声なども淡く。
ややあって、音楽フェイドアウト。
女ともだち 『それとね、ね、何よしんみりしちゃって』
中島 『ごめん…(小声で)だってわたし、プロだもん。
なんだっけ?(と、可愛く)』
女ともだち 『だからさ(だからさというのが口癖らしい)
アリス、なに顔赤くしてるのよ。まだまだ、子供なんだからあなたは(と、伯母らしく)
ほら、レースの後で二人が再会してさ、レストランで食事するじゃない?(と、みゆきに向かって)』
中島 『ダメッ! わたしにしゃべらせて、わたしに』
女ともだち 『なによ、ずるいんだから、いいとこばっかり』
アリス 『(小声で)わたしもみゆきさんが話してくれた方が…』
女ともだち 『(きっ、として)なにか言った?』
中島 『ま、ワインでも飲んで。ほら、まだ泡が出てるから…
食事を頼むんだよね、ふふ(と、思い出したのか一人笑い)
久しぶりだから、なん?ゥぎこちなくてさ。
ステーキを頼むんだよね、レアで 』
《男と女》の、そのレストランのシーンのサントラが重なる。
中島が『ステーキを頼むんだよね』としゃべるタイミングをきっかけに
ジャン・ルイ・トランティニアンのセリフ『ステーキを二人。レアで』が追いかける。
短い間、映画のシーンと現実の中島のしゃべりがシンクロしていく。
中島 『で、うなずいて席を離れかけたギャルソンに、
もっと注文しないと悪いかなとか弁解しながら…』
女ともだち 『(男の声色で)ギャルソン…部屋を注文する』
中島 『ずるいよ、(と笑いだす)』
音楽フェイドアウト。
グラスを合わせる音に続いて、周囲の焚火の音、夜の気配がよみがえる。
女ともだち 『あれからさ、すすきのにできたばかりのマクドナルドで
やったのよね、ハンバーグ、レアでって(と笑い転げる)』
中島 『それと、ポテトを注文するっていう言い方もね
(大笑いで)さすがに、ギャルソンとは言わなかったけどさ』
アリス 『それって使えそう』
三人の笑いかつ食べる音、しばしあって。
いつのまにか小さくなった焚火の音に、やさしげな風の音、
ふくろうの声などが聞こえている。
●夜。庭のホットバスで。
ホットバスにゆっくりとつかっているらしい女ともだちとアリスの二人。
女ともだちのハミング、アリスがたてる水の音が薄く聞こえている。
避暑客たちは部屋に戻ったのか、彼女たち以外の人の気配はまったくない。
その静かな夜の気配に、サラサラと紙を滑るペンの音が重なっていく。
ペンの音に重なって中島のつぶやきが、
中島 『お元気ですか?
いま、ひとり湖畔のホテルの部屋で
とびきり冷たいシャンパンを飲みながら
あなたへの手紙を書いています…』
と入り、その語尾を《男と女》のサントラの《愛は私たちより強く》の
女の囁くような歌声が消していく。
女の歌に応える男の語りが入り、しばしその曲が続く。
周囲の音はすべて消えて、この部分だけは音楽がメインとなる。
音楽の終わりの部分に、周囲の夜の気配がオーバーラップしていく。
たからかに笑いあう三人の声も聞こえている。
その笑い声に、中島の語りが。
中島 『記憶に残った映画の1シーン、
いつまでも心に焼きついているセリフ、
あなたの胸のなかだけにしまってある特別な音、
そして音楽。
あるいは、どうしても聞いてみたい音のある風景。
街に、海辺に、高原に、
私、中島みゆきと、悪友のさやか、そして彼女の姪の
高校生のアリスとが、
そんなあなたの音への想いをきっかけに、
出かけていってみたいと思います。
お便り、お待ちしています 』
女ともだちとアリス 『みゆきさん、早く』
中島がホットバスに入る音。
小間あって、お湯のなかで戯れる三人の嬌声が夜の底にさんざめいている。
以上、《映画編》了。
■予定時間 10分間
■登場人物
中島みゆき
女ともだち
その姪/アリス/17歳、高校2年生
■場所
湖畔のリゾートホテル
●夏、夕暮。湖畔のリゾートホテルの屋外に設置されたホットバス。
八月も半ばを過ぎた晩夏。
高原の避暑地。小さな湖のほとりに建てられたリゾートホテル。
カナカナの声に、数組み残った避暑客の子供たちの歓声がかすかに聞こえている。
その風に、サラサラと紙の上を滑るペンの音。
文面を考えている中島の呟きが重なる。
中島 『…ひとりで、湖のほとりに来ています…』
ホットバスの水音が短く入り、
缶ビールをあける音が勢いよく続く。
女ともだちの声がややとがった感じで、
女ともだち 『なにがひとりよ』
アリス 『(小声で)みゆきさんて、のりやすいんだネ、おばさん』
女ともだち 『ちょっと、そのおばさんて言うのやめなさいって、
何回いったらわかるのよ。名前でね、名前で 』
アリス 『誰も聞いてないのにミエはって(と、小声)。
ハイ、さやかさん(それでいいのよ、と女ともだち)。
(小声に戻って)さやかって歳かなぁ 』
いいながら、ゴクゴクとビールを飲みほしていく、アリスの若い喉ごしの音と、
女ともだちのため息が同時に。
中島 『こころのあり方の問題よ。
アリス!わたしにも一本』
と、平然と中島。
缶を受けとめ、あける音に三人のノド越しの音が重なる。
三人 『うまい!』
と、笑い転げる。
その笑いを遠ざかっていたカナカナの声と子供たちのかんだかい声が消し去る。
短い間、カナカナの合唱、風のざわめき、鳥の声、他の避暑客のおしゃべり、
ホットバスのお湯のはねる音などに、とぎれとぎれに三人の会話が続く。
女ともだち 『静かだねえ』
中島 『あなたが話さないとね』
アリス 『(小声で)言えてる』
女ともだち 『今夜は湖のボートハウスの近くでバーベキューで
すってよ。お腹すいたねぇ』
中島とアリス『(笑っている)』
●宵。湖畔のボートハウス近くのバーベキューパーティ。
肉や野菜が焼かれている音がカットイン。
はぜる薪、勢いよく燃え上がる炎の音が重なる。
数組の避暑客たちの楽しそうなざわめきも聞こえている。
テーブルに並べられていく食器、
栓を抜かれるスパークリングワインの音などに女ともだちの声でハミングが。
《男と女》のテーマ音楽である。
中島 『なつかしいね』
女ともだち 『焚火見てたら、高校のキャンプファイアみたいでさ』
アリス 『(小声で)キャンプファイヤーだって、生きた化石だね』
中島 『中学の終わりの頃だよ。14歳』
女ともだち 『そうだった? 14だったの? わたしたちって』
アリス 『(小声で)おばさんが14歳!?
うそ、今のワタシより3つ下のおばさん!(一人笑い) 』
中島 『記憶のいいあなたにしちゃ…そっか、あのことか 』
女ともだち 『いやね、そんなんじやないの』
アリス 『(小声)彼のこと、だったりして(と、一人笑い)
ヤダァー、オッカシイヨー 』
女ともだち 『何よこの子ったら、ひとりではしゃいで。
あぁ、連れてこなきゃ良かった。みゆきが甘いからさ』
中島 『 あら、何か言った?』
そんな三人のおしゃべりに、
フランシス・レイの《男と女》のテーマ音楽のスキャットが重ねられていく。
三人の会話、一瞬やみ、薪のはぜる音だけになる。
しばし、その状態が続き、やがて、
周囲の鳥の声や、風の音、湖の気配、数組の避暑客たちの話し声などが甦る。
グラスがぶつかる音短く入り、湖畔のディナーが始められる。
三人のおしゃべりが続く。音楽は、そっとフェイドアウト。
会話、周囲の気配が濃密になっていく。
中島 『学校さぼって行ったよね』
女ともだち 『そ、駅のコインロッカーで着替えてね』
アリス 『コインロッカーは、今でも使ってるよ』
中島 『三回観たんだよね、一日で。門限遅れてしかられたもん 』
アリス 『門限だって、札幌の雅子さまみたい』
女ともだち 『まだ、門限なんてあったのよね、わたしたちにも』
アリス 『お母さん、おばさんは昔、不良だったっていつも言ってる。
だから、まだ一人なんだって…』
中島 『悪かったわね、一人で』
アリス 『あ、いえ、みゆきさんじゃなくって』
女ともだち 『あの人まだそんなこと言ってるの。ほんとに。
アリス、あなたねぇ、何度言ったらわかるのよ。
名前って言ってるでしょ。怒るよ』
アリス 『(消えいるように)はい、さやかさん』
中島 『四捨五入で三十年だものねえ 』
女ともだち 『ちょっと、やめてよ。思い出してるんだから 』
中島 『アヌク・エーメのベッドシーンのアップショット、
きれいだったなあ。あそこで流れていた音楽覚えてる?』
女ともだち 『二人で訳したじゃない。単語間違えてさ、
あのシーンとあわなくて悩んだのよね、サントラ盤買うまでさ』
アリス 『さやかさん、この間ヨーロッパ行ったとき、飛行機の
中で紅茶頼んだらオレンジジュースくれたって…』
女ともだち 『あんたねえ(と、姪への呼びかけが変化)…
名前さえ呼べばいいってもんじゃ…』
中島 『(唐突に)二人は過去をひきずり 心はやみに閉ざされる。
でも疑いは消えた 愛は私たちよりも強い(と歌うように)』
女ともだち 『やだ、まだ覚えてたのォ』
中島 『プロだものわたし』
アリス 『スッゴォイ。どうして二人が親友なわけえ?』
中島 『そう思うでしょう』
女ともだち 『アンタネエ(と、それ以上言葉が出ない)』
三人の笑いが夜を満たしていく。
ひときわ高い声で鳴く鳥の声が短く入り、
炎が燃える音が高まっていく。
その炎の音をかき消すように、中島が暗唱した歌が流れる《男と女》の
ジャン・ルイ・トランティニアンとアヌク・エーメの
ベッドシーンのサントラが流れていく。
三人のため息と夜の鳥の鳴声がときおりせつなく混じる。
ときおり、離れたテーブルではしゃぐ子供たちの笑い声なども淡く。
ややあって、音楽フェイドアウト。
女ともだち 『それとね、ね、何よしんみりしちゃって』
中島 『ごめん…(小声で)だってわたし、プロだもん。
なんだっけ?(と、可愛く)』
女ともだち 『だからさ(だからさというのが口癖らしい)
アリス、なに顔赤くしてるのよ。まだまだ、子供なんだからあなたは(と、伯母らしく)
ほら、レースの後で二人が再会してさ、レストランで食事するじゃない?(と、みゆきに向かって)』
中島 『ダメッ! わたしにしゃべらせて、わたしに』
女ともだち 『なによ、ずるいんだから、いいとこばっかり』
アリス 『(小声で)わたしもみゆきさんが話してくれた方が…』
女ともだち 『(きっ、として)なにか言った?』
中島 『ま、ワインでも飲んで。ほら、まだ泡が出てるから…
食事を頼むんだよね、ふふ(と、思い出したのか一人笑い)
久しぶりだから、なん?ゥぎこちなくてさ。
ステーキを頼むんだよね、レアで 』
《男と女》の、そのレストランのシーンのサントラが重なる。
中島が『ステーキを頼むんだよね』としゃべるタイミングをきっかけに
ジャン・ルイ・トランティニアンのセリフ『ステーキを二人。レアで』が追いかける。
短い間、映画のシーンと現実の中島のしゃべりがシンクロしていく。
中島 『で、うなずいて席を離れかけたギャルソンに、
もっと注文しないと悪いかなとか弁解しながら…』
女ともだち 『(男の声色で)ギャルソン…部屋を注文する』
中島 『ずるいよ、(と笑いだす)』
音楽フェイドアウト。
グラスを合わせる音に続いて、周囲の焚火の音、夜の気配がよみがえる。
女ともだち 『あれからさ、すすきのにできたばかりのマクドナルドで
やったのよね、ハンバーグ、レアでって(と笑い転げる)』
中島 『それと、ポテトを注文するっていう言い方もね
(大笑いで)さすがに、ギャルソンとは言わなかったけどさ』
アリス 『それって使えそう』
三人の笑いかつ食べる音、しばしあって。
いつのまにか小さくなった焚火の音に、やさしげな風の音、
ふくろうの声などが聞こえている。
●夜。庭のホットバスで。
ホットバスにゆっくりとつかっているらしい女ともだちとアリスの二人。
女ともだちのハミング、アリスがたてる水の音が薄く聞こえている。
避暑客たちは部屋に戻ったのか、彼女たち以外の人の気配はまったくない。
その静かな夜の気配に、サラサラと紙を滑るペンの音が重なっていく。
ペンの音に重なって中島のつぶやきが、
中島 『お元気ですか?
いま、ひとり湖畔のホテルの部屋で
とびきり冷たいシャンパンを飲みながら
あなたへの手紙を書いています…』
と入り、その語尾を《男と女》のサントラの《愛は私たちより強く》の
女の囁くような歌声が消していく。
女の歌に応える男の語りが入り、しばしその曲が続く。
周囲の音はすべて消えて、この部分だけは音楽がメインとなる。
音楽の終わりの部分に、周囲の夜の気配がオーバーラップしていく。
たからかに笑いあう三人の声も聞こえている。
その笑い声に、中島の語りが。
中島 『記憶に残った映画の1シーン、
いつまでも心に焼きついているセリフ、
あなたの胸のなかだけにしまってある特別な音、
そして音楽。
あるいは、どうしても聞いてみたい音のある風景。
街に、海辺に、高原に、
私、中島みゆきと、悪友のさやか、そして彼女の姪の
高校生のアリスとが、
そんなあなたの音への想いをきっかけに、
出かけていってみたいと思います。
お便り、お待ちしています 』
女ともだちとアリス 『みゆきさん、早く』
中島がホットバスに入る音。
小間あって、お湯のなかで戯れる三人の嬌声が夜の底にさんざめいている。
以上、《映画編》了。