帆を、あげる。
珍しく12時少し前にすべてが終わったので
渡辺を誘って近くの公園に夜桜を観に行った。
三日で満開になってしまった枝垂れ桜。
セブンイレブンで中国緑茶のハーフボトルを買い、
枝垂れ桜の下のベンチに座り、男二人で夜桜を観る。
見上げた枝垂れ桜のてっぺんの少し右にきらめく星が一つ。
タバコを三本灰にした。
熱いうどんでもすすってくるという渡辺と別れ
納豆に生卵という朝飯のような晩飯を白湯でかっこんだ。

久しぶりに作品集を取り出し、デッキにかけた。
ヘッドホンをつけボリュームをあげて最後まで。
八月のあの満月に恥じない仕事をしたいと痛切に思う。

深夜に机の上を整理。
年末から探していた安藤さんのエッセイ「降りてくる空気」を発見。
積み上げられた書類と読んでいない小説の下で埃をかぶっていた。

「森のひと」のオブジェにとりかかっていた安藤さんに
六月のある夕、現場事務所の二階でかけていた
井上陽水の「月の砂漠」の入ったCDをあげたら、
オープン前日の七月六日にお返しだと言って渡された。
いわき民報に一年にわたって連載したエッセイをまとめたもの。
夕日と虹のきれいな日だった。
満月の夜だったが夜になって雨となり、観そこねた。
この夜に観そこねた満月を一ヶ月おくれて、舘岩村湯の花で撮った。

生涯二度とは観ることがないと思わせられる月の出を
作品集の冒頭に置いた。
そして道端に咲いていた早咲きのコスモスを添えた。
あらためて見直し、背筋が震えた。
倉持さんの感性とデジタルHD-F900というスーパーカメラがとらえた
2001年8月5日の超満月。漆黒の闇を切り裂いたその超月光。
いつかこいつを真っすぐに世に出したいと思う。いや望む。

疲れたひとや、わけもなくさみしいと感じるひとが
一杯の酒とともに、この月光で始まる映像を見ることで
ほんのすこしだけ慰謝されてくれたら…
ささやかな元気と勇気を取り戻し、明日があるじゃねえか、
そうつぶやいて微笑んで眠りについてもらえたら…
そんなことを夢想する。

「森のひと」安藤さんからの便りが届いた同じ夜に
まったく新しい次元での編集を試し
例年になくはやい満開の桜を眺め
行方不明だった本を探し出せた。


行こうじゃねえか。
たぶん、そういうことなのだ。


デジタルジャパネスク。ここが潮時である。
東京星菫派、帆をあげる。