パトリス・ルコントの《橋の上の娘》★★★★★!!
パトリス・ルコントの《橋の上の娘》をDVD版で。
無知は幸福である、としみじみ。

2年前に公開されたこの映画を、知らずに過ぎていた。
なんのついでか、夏の終りにただルコントの作品だからという
それだけの理由で買って、そのままだった。
封を切ったのは二時間余り前。

二度目のグリーン・デスティニーを見終り、
北方の《擬態》の続きでも読みながら夢を見ようと
パジャマに着替えたが、
タバコとコーヒーが欲しくなり、湯を沸かした。
春のような夜のせいだと思う。
コーヒーを淹れている間に眠気が消えた。

明日の夜にと考えていた《橋の上の娘》の封を切った。

引きずり込まれ、そのまま107分が過ぎた。
呆然としている。なんというモノクロームの美しさなのか。
なんという純愛の描き方なのか。


ラストのイスタンブールの橋の上。
このシーンの鮮烈さに戦慄した。
出逢い-別れ-彷徨-その後の再会という
なんのけれん味もない平凡なドラマツルギーの上に
究極の愛を描き出すルコントのマジック。

死ぬことを踏みとどまって何をするのかと問うナイフ投げに
女は「二人でいるだけでいい…」と答える。そこでジ・エンド。
この短いセリフ回しにこめられた深さと説得力には打ちのめされた。

モノクロームでこれだけ美しい映画を見たことがない。
ルイ・マルの《恋人たち》が最高傑作だと思っていたが
《橋の上の娘》の娘は、あの美しさを完璧に越えている。
内容のモダンさはさらに比類がない。

知らずに過ぎることはまことに幸運である。
こんな思いもよらない朝があるのだから。